第61話 蛇は正対する悪魔を見る
微妙に不穏な情報がもたらされた3度目の休憩が終わり、参加者が入れ替わる。締めとなる「混合」であるからか、それともその基礎金額が跳ね上がるからか、あるいはその両方の理由で、全体的に実力者が増えているようだ。
そして基本的に眺めるだけだったここまでと変わり、今回はユーラリングも入札に参加するつもりだ。少なくとも、確実に1つ、あるいは2人は譲るつもりがない。
「まぁリング様の場合、相手が上げた金額をキリ良くしていくだけで勝てますわ。億まで届いたらぶっちゃけ勝ちです。大概アイテム払いは借金とイコールですからな」
「最善は、言っては悪いが先ほどの情報が誤報であることだが」
「それは同意ですんで、大丈夫です」
そんな訳で始まった3つ目にして締めの区切り「混合」。お決まりの司会からの説明と最終警告がなされ、まず出てきたのは
「うわ。どっからあんなもん持ち込んだのやら」
「いや、1日目のイベントで死ぬほど手に入ったぞ?」
「そうですのん?」
「何せ「時の木」を刈り倒してようやくスタート地点だったからな」
「阿鼻叫喚だとは聞いておりましたが、いやはや……」
なんと、「時の木」の丸太だった。主に1日目の公式イベント「お宝探しゲーム」でユーラリングは山ほど持っている。見かけの割に重く、しかも即座にアイテムボックスに入れないと消えてしまう為難易度は高いが、それを逃すようなユーラリングではない。
笑える程の勢いで値段が上がっていき、200万スタートの「時の木」の丸太は900万で落札となった。4.5倍だ。会場の片隅でハイタッチをしている一団が居たので、そのグループの出品物だったのだろう。
ドロップ限定ポーション、採れるタイミングが限定される薬草、レアを超えた希少ドロップ品等が順番に出てきては値が跳ね上がって落札される。それが繰り返され、ユーラリングの目に最初に留まったのは、
「お、剣が最初でっか」
「まぁ指輪は加工が出来るからな。魔法の封じ込めも含み」
「…………でんな」
刀身が透き通る、というより、ガラスのように透明な剣だった。ユーラリングの自信作その1だ。「混合」になってから熱が入りだし、既に実況か通販の紹介となっている司会の説明が終わり、開始時点の値段は600万だった。
それが次の瞬間には1000万になり、そのまま500万刻みであっという間に5000万まで跳ね上がってまだ止まらない。どころかユーラリングがあっけにとられている間に、あっさりと億の大台を突破した。しかし突破してなおまだ止まらない。
「……あ、いや、待て。何をやってるんだあいつら」
「え、お知り合いでもおられました?」
「…………競り合いのトップ3人をよく見てみろ」
「えぇと。…………あ~、これは、これは……」
その途中、何か違和感を覚えて競り合っている人物を探したユーラリング。そしてそこに、サタニスを含む『King Demon’s Round Table』所属の“魔王”の姿を見つけて、微妙な顔になった。
なお今もまだ金額を吊り上げ続けている3人の意図としては、ユーラリングの武器は単純に性能的に逃せないのをよく知っている、という事の他に、ユーラリング製の装備、しかも本人の自信作にはこれだけの価値があると示して、自分達も持っている装備にプレミアをつけようとするものがあった。
……ユーラリングには、途中から「誰があの剣を手に入れるか」という、いろいろと関係ないただの勝負になっている気もしたのだが、もちろん止められる訳もない。
「…………資金が増えてよかったと思う事にしよう」
むしろそれ以外だと呆れるしかない。人の作品で何遊んでんだ、という怒りすらある。が、色々諦めてお茶を飲むこと数分、最後の最後で1億伸ばしにして逃げ切ったサタニスが落札した。なお最終落札額は
『──何という落札競争っっ! 決着はっ! 7億8000万! 7億8000万で落札ですっっ!!!』
驚きの、億の後半だった。……まぁサタニスなら十分な現金も持っているだろう、とため息を飲み込むユーラリング。シズノメは、もはや乾いた笑いを零すしかない。
さてと、とあっさりと切り替えて次の出品物を見る。次はどこかの名工が作ったらしい、驚きの自動サイズ調節機能付きの鎧だった。……が、先程のユーラリングの剣のインパクトが強すぎて、あまり伸びなかったようだ。
『えー、落札状況を鑑みまして、現在出品順を調節しております。少々お待ち下さい』
「まぁ、あの鎧があの額では……」
「文句なら我以外に言ってほしいものだ」
言外に逆恨みしてくれるなよと言うユーラリングだが、大概それはフラグというやつだ。
それはそれとして、どうやら出品順の調節が終わったらしい。ユーラリングの予想だと、早々に最高落札額競争を締め切って、参加したい人は参加してねの消化試合にするというものだ。
そのユーラリングの予想は当たっていたようで、次に出てきたのはとある月に1度だけ発生するクエストで手に入るチャンスがある、希少極まるアイテムだった。
「この分だと、じきに指輪も出てくるでしょうな」
「となると、やはり可能性があるなら、実質の大トリか」
「でしょうなぁ」
未だオークション的には沈黙を守るユーラリング。当然、サタニス始め所属同盟の“魔王”達には居ることが知れているだろう。サタニス辺りは、それでも沈黙している理由まで察しているかもしれない。
問題が、あるとすれば。
「……こんな形で、あの最悪が敵に回ろうとはな」
それを察してなお、サタニスが落札競争の敵に回る可能性が、高いという事だ。
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