第53話 蛇は格の違いを見せつける
さて結果だが、
「リング様、特殊ゲートの申請通りましたやって、繋げられますよ」
「そうか。ちょうど終わったところだ」
……まぁ、言うまでもない。非常に順当に、妥当に、当たり前に、ユーラリングはごく普通(?)のロングソード1本とブレスレット1つで、その場に血の気を滾らせて集まってきていた生産プレイヤー達の心とプライドをバッキバキにへし折っていた。
鍛冶仕事の間はユーラリングから離れていたヒュドラだったが、手があれば南無、と呟きつつ合掌していただろう。生産プレイヤー達の嫌がらせも大概酷かったが、その上で品質をぶちぎったユーラリングはもっと酷い。
「……おい。質の悪い粗鉄しか置いてなかったよな……?」
「なんであのカス石炭であんな火力が出せるんだよ……」
「ってかあれ、失敗作の産廃ポーションもどきだよな……?」
口から抜け出た魂を引きずり戻しながらの呟きに沿って起こったことを解説すると……。
まず用意されていたのは小型の炉と粉や砂利のような石炭に、不純物の多い粗鉄。これで刃物を作ってみろ、というお題だった。ユーラリングはそれぞれの品質と状態を確認すると、まず部屋の隅に山積みにされていた、今回の勝負に関係ない筈のポーションの山を探った。いくつかの薬品を手に取って混ぜ合わせ、そこに砕けた後の残りのような石炭を投入。混ぜ合わせて成型し、煉瓦状の石炭を合成。
次に自分にステータスアップのバフをかけて、ハンマーと金床の強度を確認。火の魔法も併用することで、煉瓦状の石炭を一気に燃焼することで火力を引き上げ、一気に鉄を融解させた。
そのまま引き出した鉄を上がったステータスを全開に超速度で鍛造。その中に生産用バフもかけていたらしく、また鉄の並びが整った影響で刃の部分1㎝ほどが透明な、見事な魔剣が打ち上がった。
「……ワイヤー細工って、なんだっけ?」
「あんな屑石で、何が出来るかって笑ってたのに……」
なおブレスレットについては、剣を作るついでに鍛造鉄のワイヤーを作成。色味も悪く粒も小さい宝石しか無かったところ、それらを丁寧に研磨、ワイヤーを更に細く伸ばして編み込み、幅の広い腕輪を作成。
いつの間に探していたのか、ポーションの山から取り出した薬品を混ぜて接着剤のようなものを作り、網目の隙間に屑宝石を埋め込んでいった。……そして気が付けば、点描画の要領で見事な大輪の花束が描かれていたという訳だ。
カットによるものか配置によるものか、それとも絵柄によるものか、こちらもバフ効果マシマシの逸品だ。
『(何が酷いって、ここまで10分かそこらっていう事だよなぁ……。しかもほとんど宝石の埋め込み作業だったっていう)』
心も折れようというものだ。格や練度ではなく、もっとなにか別の、次元とでもいうべきものが違う。……まぁ実際、同じ生産特化でも普通の人間や魔族と「生まれついての“魔王”」では、埋めようのないステータス格差があるのは確かだ。
実に酷い実力差を叩きつけたユーラリング。ここまではまぁ、シズノメの想定通りだ。
ただ、そこから更にオーバーキルの追撃を叩き込むのがユーラリングである。
「……ところでリング様。こちらの剣、刀身が丸っと透明なんですけんど?」
「材質は蒼銀なんだが、鍛造が上手くいった。そっちの剣も一部そうなってるぞ。重さは変わらんがな」
「なるほど。……で、こちらの指輪は?」
「金と銀をある薬品と一緒に融解させた合金だ。レシピは秘密だが、オド容量は自信があるぞ」
生産プレイヤー達の戻りかけていた魂が、は……? という言葉と共に再び口から抜け出していった。……今のだけで良かったんじゃないかなぁ。ヒュドラは主のもとに戻りながら、そんなことを思ったとか。
流石のシズノメも顔が引きつるのを何とか耐えている状態だったが、半ば屍と化した生産プレイヤー達を視界の端にとらえると、実に満足げにふんすと息を1つついた。……本人は否定するだろうが、シズノメもだいぶユーラリングに心酔しつつある。
さてそれはともかく、と、散々にユーラリングをけなされた鬱憤を晴らす……もとい、高くなりすぎたプライドをへし折る事に成功したシズノメは、あっさりと気持ちを切り替えた。
「ほな、これとあの2品は明日のオークションに出品させていただきます。確かにお預かりしました」
「任せた」
「出品者には参加権が与えられるんですけど、リング様はどないされます?」
「いいのか? 可能なら参加したい。眺めるだけでも楽しそうだ」
「分かりました。お席を確保しておきます」
ここでシズノメは時計を確認し、首を傾げた。
「最初の公式イベントまで、あと1時間ほどですな。リング様、何かご用事はありますか?」
「ふむ。……あぁ。急ぎではないが、あるな。「辻バトルエリア」で見かけた出店が、こちらに本店を出していると言っていた」
「となると、装備系専門店でっか?」
「呪われた装備専門店だな」
「あぁ、ほなあそこですな。というか、隣ですわ」
ユーラリングがポーション系に興味を惹かれるとは思えない。そして戦闘系であれば装備だろう、と即座に推察し、出店規模でユーラリングのお眼鏡に叶うほどの品揃えと品質、という点で即目的の店を特定したシズノメ。
隣? と思わず素で首をかしげるユーラリングに、シズノメは「メインイベント会場」側の隣を指し示して見せた。そちらには……確かに、店舗というよりお化け屋敷のような、真っ黒い天幕で覆われた店舗(?)が存在していた。
ある意味存在感は抜群だし、あの露店とも空気的なものが同じである。……それに比例してか、その客入りもお察し状態のようだが。
「品自体は上物ですし、種類も豊富なんですけんど、如何せん見た目で敬遠されがちですな……。まぁ、本人達は呪いの装備に囲まれてれば幸せらしいんで、コアな客という名の同士がいる現状で十分らしいですわ」
「まぁ本当の価値を理解しない者の手に渡る程の損失は無いからな」
「そらそうですな。そういう意味では、来るものを選別する良い方法なんかも知れません」
生産者として、あちらの店舗の姿勢に理解を示したユーラリング。その理屈はシズノメにも理解できた……というか、ユーラリングが気軽に放り込んでくる爆弾に当てはめて考えると分かったらしく、そんな感想を零している。
そしてその後ユーラリングはお茶の礼を言い、またオークションで、と『聚宝竹』の店舗を出て、隣の暗幕の中へ入っていった。
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