第46話 蛇は皮算用を挫かれる
それは、突貫工事で第10層を構築している途中に気付いたことだ。
「部屋を複数用意すれば、ギミックの切り替えに悩まなくても良いのでは?」
そんな訳で、休憩所は円形になったのだった。ギミック切り替えの悩みが解決したので、今は他の部屋を構築しつつある。と言っても、その大半はお手伝いゴブリンに丸投げなのだが。
ではユーラリング自身は何をしているかというと、それは当然、ヒュドラに渡した装備のように、「あの部屋で戦うとき専用の」装備を作っているのだった。具体的には、直接の『配下』であるアンデッド4体と、ほぼ配下扱いの個人同盟者(推定怠惰の悪魔)の分を。
なおヒュドラはオーダーを完遂。しかも一息に食い殺すのではなく、その凶悪さで有名な毒で嬲り殺しにしていた。ユーラリングは大変満足し、普段使い出来る尾に着ける装備を作って渡している。ヒュドラが狂喜したのは言うまでもない。
「転移方式に切り替えたら、扉自体で遊べるようになったのも発見だ」
気軽に動かせるのもいい。と呟くユーラリング。あのギミック満載の扉は、直接はどこの空間にも繋がっていない『転移扉』と呼ばれるものだった。触れることで空間を繋いで開く形であり、一定時間で自動的に閉じる。
ちゃんと両方向で行き来できるようにはしてあるので、別に「ボスからは逃げられない」という訳ではない。ただしもちろん、実際問題として、出来るかどうかは別とするが。
なので、現在第10層は最初の階段がある休憩室と、休憩室にある扉からいけるボス部屋が、それぞれ独立するように存在していることになる。となると、もちろんその下の階層に行くべき階段も、ボス部屋の数だけ存在することになるのだが。
「第11層はこれからだが、延々無数の道しかない大迷宮にしてやる……」
結構頑張った迷宮フロア2つを力業で突破され、ユーラリングはムカついていた。もちろん既に第9層にはノックバック含む強制的な移動を封じる対策を講じたし、その脚力とルーン魔術と思われるスキルで足場を飛び石のようにして越えられた第8層は足が完全に離れていたら重力が急激に増すように設定し直している。
ぶちぶちぐちぐちと怨嗟に似た文句を口から零しながらも問題なく装備は仕上がり、さて、と目をやるのは設定可能な人員一覧だ。扉及び埋まった部屋は現在6個。もしかしたら増えるかもしれないが、それは少なくとも今すぐではない。
2つぐらいは数すなわち力という部屋にするつもりだが、それは第11層が出来てから、第12層へ続く階段から遠く離れた角に位置する階段に繋がるボス部屋に設定するつもりだ。つまり、まだまだ先の話である。
「と、なると……この「*同盟配下*」の件が片付いてからだな」
それに、と付け加え、ユーラリングはようやく開くことが出来るようになったウィンドウを見て、ようやくか、と息を吐いた。
「これで、地上階が作れる。ようやく重量制限解消のめどが立った」
長かった。と呟くユーラリング。地上階、とは読んで文字のごとく、具体例を挙げると『天地の双塔』の地上にある塔のようなものの事だ。
ユーラリングがこの機能を目指していた理由はただ1つ。地下においてはどう頑張ってもアイテムボックスから取り出すことのできない、大量の土や例の岩盤及び結晶塊を取り出すためだ。
「青天井という言葉もあるくらいだ。流石にどれほど大きいと言っても、地上であれば取り出せるだろう」
長かった。としみじみ呟くユーラリング。実際、取り出してしまえばあとはスキルで小分けに加工できるのだ。そして小分けにすることが出来れば、それはただの貴重な資源である。
ただの貴重な資源であれば使い道には困らない。……筈、である。普段の素材の買い方が荒い為あまりそうは見えないが、ユーラリング(の中の人)は基本的に、貴重品をため込むタイプだ。RPGで終盤に個数限定で手に入るアイテム類を最大まで集め、結局1つも使わずにクリアするパターンである。
まぁそんな訳で、地上階を作成する為のウィンドウに目を戻したユーラリング。機能の詳細やヘルプを引っ張り出しつつ、どういう階層にしたものかと考え出した。
「10階層目を作成時点で機能開放、最初の設定可能階層数は5階まで……。その後は、地下階層を10層作るごとに5階層ずつ追加できる……地上は地下の半分なのか。……という事は、上限いっぱい作っていると、現在の階層数が推測されてしまう可能性があると……」
……実はこの予測、正確なことを言えば一部間違っているのだが……それを指摘できる存在は、少なくとも『ミスルミナ』の中にはいなかった。なのでユーラリングは勘違いしたまま考えを進めていく。
「とはいえ、先日の侵入者で第10層の存在はすでに知られているしな。今回はそこまでダメージにはならないだろう。そもそも、地上第1層は戦闘階層ではないのだし」
シズノメが聞けば「!?」と顔に書いて勢いよく振り返るだろう呟きを零して、ユーラリングは地上階の設置設定を進めにかかった。
「えーと……まず必要なのは……人払いと、代理入り口……?」
そして、早速躓いた。そんな人員などいないし、そんなことを言って正直に退避する侵入者たちとは思えない。というか、有り得ないだろう。下手をすれば“魔王”が地表に出てくる大チャンスである。逃がす訳が無い。
んぇー。と、思わずよくわからない呻き声をあげて机に突っ伏したところで、何故か、ゲーム内メールの着信音が響いた。
「…………」
メールを(注文以外で)ユーラリングに送ってくる相手など、正直、1人しかいない。だからこそユーラリングは中身どころかメール画面に移る前から顔を引きつらせていた。
だがそれでも、見ないという選択肢は存在しない。ついでに言えば、その内容であるお願いもしくはお誘いを断るという選択肢も存在しない。
それならば、少しでも準備に時間を使いたい。そう切り替えたユーラリングは、1つだけ息を吐いて身を起こし、メール画面に移動して、今しがた着信したばかりのメールを開いた。
『件名:お出かけしましょ♡
本文:
はぁいリングちゃん。まずは【クーホリン】の撃退おめでとう!
あのやんちゃっ子がささくれもやさぐれもせず煤けてたって聞いてもう可笑しくって! 向こう当分はあの顔を見るだけで笑いが止まらないわ~。
あぁそうそう、それでね。今度の新月の前後1週間ずつ、2週間かけて大きな
それでね。リングちゃんが『King
大陸中どころか、世界中から魔物という魔物が集まるから、楽しいわよ~♡
PS:あ、出来れば噂の「魔王ルック」って姿で来てね!
あと、ティアラもお揃いでね!』
「お披露目という時点で参加しないという選択肢が無い訳だが」
分かっていた事を再確認して、ユーラリングは息を1つ。承諾の返事と、用意するべき準備、気を付けるべき備えは何かの質問を書いて、返信した。
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