第44話 蛇は舞台を整える
そこからユーラリングがひたすら作っていたのは、魔鉄製の巨大な輪のようなものだった。追い添加素材として「魔王ユルルングル?の血」を投入された魔鉄は、思わず笑ってしまいそうになる程ぶっ壊れた性能となっている。
ユーラリング自身よりもなお大きなその輪は、山になっていた鉄鉱石よりやや小さいぐらいに積みあがった。そして今度は、その輪を全て丁寧に、顔が映るほどに美しく滑らかに磨き上げていく。
シズノメがひそかにうっとりするほど滑らかに磨き上げられた巨大な輪の山。しかし今度は、外側に横一線の、ユーラリングの手ぐらいなら余裕で入ってしまうほど深く幅もある溝を掘り始めた。
「シズノメ、まだいるか」
『おりますやで、何かご注文ですか?』
「ポーションゲル化剤はあるか。余裕があれば目止め革もだ」
『はいな! ……リング様、ゲル化剤の後で使うポーション石化剤もありますけど、どないします?』
「あるだけだ」
『注文はいりましたー!』
その溝も丁寧に磨き上げつつ、ユーラリングは注文する。シズノメも大体どこに使うのか察したので、必要そうな別商品も併せて勧める。即答での注文にやはり値段は無いが、まぁこれはいつも通りだ。
ポーションゲル化剤を、ユーラリング自身が作ったポーションに混ぜてゼリー状に変える。それを溝の奥に詰め込んでは、ポーション石化剤で宝石のように固めていった。最終的に、ポーションによる層が9層出来上がる。
そしてユーラリングはそのポーションによる層の上下に、深々と魔法陣の役割を果たす謎の文字列を刻み込み始めた。文字というより溝と言った方が正しいような深さで掘り込んだ後は、表面全体に保護と耐久度を上げるコーティング剤を塗り重ねていく。
「ヒュドラ」
そして最後にもう一度磨き上げた大量の……否、「ちょうど100個の」金属の輪をアイテムボックスにしまい、ユーラリングは第10層予定地へと転移した。
声をかけつつ、とりあえず大きな空間だけは掘り抜いてあった場所に、ざらざらと黒い砂利を敷き詰めていく。直前で雇用したお手伝いゴブリン達は、壁と天井の担当だ。
ぐいぐいぎゅっぎゅと土の地面にしっかりと埋め込みつつ、ユーラリングはつづけた。
「応答はしなくていい。第7層から“英雄”の侵入者だ。恐らく第8層及び9層も突破するだろうから、こちらの作業が終わったら第10層で迎撃するように」
『わぁお、随分向こうさんの実力に自信があるんですね?』
応答はしなくていい、と言ったにもかかわらず返ってきたいつも通りの声に、わずかにユーラリングの表情が凍る。部屋の中央に青黒い色の非常に細かい粉を山積みにしつつ、沈黙する。
その沈黙は、細かい粉が天井近くまで積み上がり、別の階層へお手伝いゴブリン達ごと避難した後転送機能で爆弾を投入。派手な爆発と高温の爆炎が部屋を埋め、鎮火して部屋の温度が下がるまで続いた。
「“英雄”の名は【クーホリン】」
青黒い細かな粉と、黒い砂利が爆発で蒸着され、高熱で溶け合わさった第10層は、水底のように暗い、継ぎ目の一つも存在しない石造りの空間となっていた。
お手伝いゴブリン達が更にその表面をつるつるに磨き上げ、強化薬剤を塗り重ねていく作業の中、ユーラリングはダンジョンエディット機能でヒュドラの為の環境変化ギミックを仕掛けていく。
それは、長大極まる、壁の上部と天井の外周から発射され、反対側の壁や床に突き刺さるほどの、床や壁と同じ材質の槍。飛び出す速度を最も早く、飛び出してしまえば壊れるまでそのままになる槍を無数に仕掛けて、ユーラリングは吐き捨てるように言葉を継いだ。
「我が片翼を奪った者だ」
『……へぇ』
そしてその情報を、さっき作った100個の輪と共にヒュドラへ転送するユーラリング。ダンジョン機能から第10層の設定を呼び出し、ヒュドラを部屋の主に設定する。
これで第5層の下層部分に、第10層への転送陣が出た筈である。その時点で見えた侵入者の位置は、第9層の半ば。
「我が領域に裏道から入った挙句、用意した順路を一切無視して力業でごり押ししてくる無粋極まりない輩でもある」
『成程。では
命令を乞う、という珍しい発言に、ユーラリングは早速転移してきたらしい大きな多頭の蛇と、僅かに目を合わせる。ちりり、とその無数の目に殺意が沈んでいるのを見て、
「必ず殺せ」
しかしそれに負けないほどの不機嫌さと不快さを表面に出して、短く、初めての命令を下した。
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