第40話 蛇は抱える宝を自ら作る
ユーラリングのダンジョン『ミスルミナ』の第9層が着々と形になりつつある事など知る由もなく、侵入者たちは主に第4層を目指してせっせと挑戦を繰り返していた。
ドがつく王道の作りに『天地の双塔』のネームドが闊歩する第1層、坑道のような構造と薄い瘴気の満ちる第2層、単調で方向感覚を失いやすい迷路に毒水と強い瘴気が満ちる第3層を潜り抜けた先、虚空に天秤が連なるようなお宝エリアの第4層だ。
ちなみに、ここまでの階層の攻略法はほぼ確立している。今、先に進みたい検証や攻略を主とする集団は第5層の攻略に勤しみ、お宝が欲しい集団は第4層の効率的な回り方を模索しているところだ。
『そういえば、リング様』
「どうした」
『確か、お宝が山ほど手に入る階層があったような気ぃするんですが、そのお宝っていつ作ってるんで?』
現在はひたすらに強化磁器コインを量産しているユーラリングに、ふとした調子でシズノメは問いかけた。理由は特にない。しいて言えば、聞こえてくるお宝ゲットの話と、今こうやって見ているユーラリングの作業、その量がどうにも食い違っている気がしただけだ。
なので、答えが返ってくることは期待していなかった。いつものように「秘密だ」で流されるかなーとか思っていたシズノメ。
「……ふむ。我が領域の外に伝えなければ教えるが?」
『顧客情報は何をどんだけ積まれても渡さないのんが『聚宝竹』の基本ルールですよって、ありえませんわ』
どうやらユーラリングの方も単純作業が続いて暇だったらしく、そんな言葉が返ってきた。シズノメは「おや」と思いつつ、基本中の基本であるルールを伝えて返答とする。
それに納得したのか、ユーラリングは手を動かしながら言葉を継いだ。
「あそこにあるのはほとんどが低位のポーションと金貨だ。そこにまぁまぁ低位の消費装備と便利道具を混ぜ、極稀に「血の刻印」が混ざるようになっている」
『ふむふむ。装備品はないんですな』
「一部例外枠として侵入者どもが落とした装備は入っているがな。まぁ金貨については言うまでもないだろうから省略するとして、消費装備は粗悪な金属を材料に『一括作成』している」
『まぁ投げナイフとかですもんなぁ』
「低位のポーションは「癒水の宝珠」を作って大きな水瓶に入れて、こちらも『一括作成』だ。だから時々ガラスの材料は買っているだろう」
『あ、あー。あれってそういう意味の注文でしたんですか』
「便利道具は暇つぶしに作ったものを適当に放り込んでいるだけで、総合量で行けば実は一番少ない。まぁ、我が暇になればまた増えるがな」
『便利道具いうと……あの、お香とか壺とかですな。なるほど、意外とそっちの方が貴重品やったんですなぁ』
ほへー。という感じの声を出すシズノメだが、実は気が遠くなるのを必死に繋ぎとめていたりした。
というのも。そもそも『一括作成』という機能自体が「死に機能」とか「実質手作業オンリー」とか「量産を正面から否定してる」とか言われる程使えないのだ。具体的には成功率がガクッと下がり、成功しても品質がお察しになってしまう。……ユーラリングは、それを、粗悪な金属を材料にして「そこそこ低位」の品質を保っていると言った。
ポーションの場合は更に酷い。「癒水の宝珠」というのがそもそも鬼難易度の作成物で、その効果は「投入したポーションを効果100分の1で湧き出させ続ける」というもの。微効果ながら癒しの泉を設置するためのものだ。そして、『一括作成』の機能はその上にかかってくる。
で。便利道具に至っては、普通に作れば確かに便利道具の枠に入るところ、暇つぶし……つまり、手ずから作っている、と言った。あのユーラリングの文字通りの手作業、しかも、暇つぶしという事は、レシピを模索するのも兼ねて盛大に遊んでいる。下手をせずとも、「血の刻印」を超えるレア扱いされている。
「貴重品か? まぁ、数が少ないという意味ではそうかも知れんな」
『はははー。またまたー。……すんませんリング様、ちょっと呼び出しかかったんで少しの間席外しますわ』
「そうか。わかった」
そして例によって自覚が全く微塵も存在しないこの言いようである。引きつりそうになる声を笑いでごまかし、シズノメはダウンを気取られないように一時『ミスルミナ』から退出した。
相当に感覚麻痺したシズノメでこれである。安定のユーラリングであった。
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