第41話 蛇は部屋の変身を考える
平和と言えば平和な生活が続いていたユーラリングは、まぁ順当に、無事に、第9層の完成にこぎつけた。めでたく『ダンジョン』機能や魔法を使わない、自立にして完全ランダムな迷宮の完成だ。……普通に凶悪すぎるのだが、もちろんそれにツッコむ者は居ない。
何が凶悪かと言えば、その「壁」が貯金箱である、という事だろう。実は、ユーラリングは「ウォーキングスピリット」を雇う際の契約に、こんな条件を付けくわえていた。
1つ、必ず視界の無い所で動くこと
2つ、特定の硬貨が投入されたら1時間の間動かないこと
3つ、憑いている貯金箱が壊れた/されたら、予備に移動すること
……つまり、『ミスルミナ』第9層は、「壁」を壊すことであの硬貨を手に入れ、その硬貨で「壁」と「床」を固定しながら進む、というのが正規の攻略方法となる。
そしてその「壁」こと貯金箱の強度はお察しの通り。何より、動いて組み変わるといっても空間的には高さと幅が共に2mの閉所、そんな中で大規模火力をぶっ放したら、吹っ飛ぶのは侵入者の方だ。
貯金箱の中に入っている硬貨の数を表示するのも、進めば進むほど基本的な枚数が増えるようにしてあるのもまた質が悪い。何せ枚数の多い貯金箱に釣られて深入りすれば、待っているのは帰り道を完全に見失ってからの餓死である。
「……さて、第10層はどうするか……」
一応、他にも入手手段は用意するつもりのユーラリング。……例によって、その手段によって破産するものまで出るのではなかろうか? という方法ではあるが。
その為に、そして今もなおアイテムボックスを圧迫し続ける大量の土と巨大な岩盤及び結晶塊を何とかする為に必要なのが、第10層までの構築だったりした。手段と目的が致命的にかみ合っていない。
それはそれとして、その目的となる層をどんな場所にするかで悩むユーラリング。完全に節目の階層であるだけに、何か凝ったことをしたいようだ。
「やはり、ボス階層だろう」
それは確定だな。と呟くユーラリング。まぁそこまでは誰でも思いつく範囲だ。だって第5層がヒュドラ専用階層となっているのだから、節目となる階層には「何か」居るとみるだろう。
ここで問題は、基本的に階層は掘りなおしたり、順番を入れ替えたりできないという事。そして、現在ユーラリングの『配下』にボスを務められそうなのは、ヒュドラしかいないという事だ。
「流石に第10層でラスボス戦は、なぁ……」
ヒュドラは最強の『配下』で、たぶんこれからも最強であり続けるだろう、と思っているユーラリング。なので、ヒュドラが本気戦闘をする階層はもっと下に作りたいのだ。今現在の第5層でも十分どころか過分なのだがそれには気づいていない。
かといって、ヒュドラですらもっと下がいいのに、自分(“魔王”)がここに居座るというのも無いだろう。此処は、いうなれば、他にボスを任せられる『配下』あるいは自動復活、修理が可能な何某かが務めるのが一番いい。
……が、先ほども問題に上げたが、現在ボスを務められるのはヒュドラしかいない訳で。さらに言えば、その何某かの特性も当然分からない訳で。
「…………特性特化型階層は、無理だな」
そこに配置するボス(モンスター)の特性を120%活かし、不利な要素を可能な限り削り落とす、その場所にいるだけで強さが数段どころではなく跳ね上がる、ボスエリア。
実際は、そんなものではない。ユーラリングが本気でデザインし、構築したエリア内であれば、その辺の雑魚ですら大手を振ってボスを名乗れるぐらいの凶悪さを発揮するだろう。第9層が良い例である。「ウォーキングスピリット」……攻撃力も無ければ状態異常も使わない、マスコット扱いの悪戯妖精「程度」が、あそこまで凶悪になると誰が考えるものか。
が、しばらく考え、結局ユーラリングが出した結論は「それは無理」だった。それもそうである。何せ「部屋の主が入れ替わる」という前提だ。大きさも耐性も攻撃方法も全く異なる種族の全てに合わせるというのは、流石のユーラリングでも無理である。
「しかし、素直に直接火力勝負を挑んでやる必要もない、と思うんだが……いや、直接戦闘が得意な種族もいるか……」
レベルを上げて物理で殴る、というのも立派な戦略の一つ。そう思い直したユーラリング。単に壊れない部屋と壊れない装備を与えるだけで手に負えなくなる種族というのも、まぁ確かに存在する。というか正直、現在のヒュドラはほぼそうなりつつあったりする。
……レベルの高い相手を、まぁまず間違いなくこちらにはダメージが通らない状況で、不意打ちし続けているのだ。いくらヒュドラが大本からしてランクの高い「役」だとしても、それなり相当の勢いでレベルは上がる。そして元のランクが高ければ、レベルアップを続ければそのステータスはまぁお察しというやつだ。
「で、時として我も出なければならん、か。ふむ。やはり基本形状は大規模かつ非常に頑丈な平面の空間一択だな」
闘技場を真似て石畳でも敷き詰めるか。それとも泉の名を関しているのだから水面のような滑らかな床材を作るか。とか独り言を呟きながら、構造全景のラフ画のようなものを描いていくユーラリング。
ダンジョンエディット機能の一つであるそれでまず直径100mの大きな円を描き、そこから高さを10mほどつける。壁にも床にも仕掛けは無し。……そこから少し考えて、第9層からの入口を、小さな部屋と短い通路で付け足す形にした。
その通路の正面に当たる壁を、円柱を押し付けるように凹ませる。凹んだ部分の床を奥に向かって階段状に上げて、その奥に大きな椅子を一脚設置した。
「…………これは後で作るか」
少し考えて、椅子を撤去。その高さを付けた場所をシークレット扱いにして、開示条件をユーラリング自身がその空間の内部にいる場合に設定。合わせて内部を戦闘不可能設定にし、流れ弾等が飛んでこないように防壁を設定。
「まぁ基本はこれで良いとして。さてどうする。硬さはまぁ床材を作る時に考えるというか、可能な限り硬い床材を作るとして……ここでヒュドラが正面衝突は、どちらかと言えば不利になるな」
うーん。と悩むユーラリング。実際のところ、ヒュドラは一人波状攻撃が出来る程の手数が売りなので、単純にその巨体が一切の邪魔にならない広い場所とは相性が良かったりする。
が、まぁ硬い平面の床という事は、多くの場合侵入者にも利として働く。ので、ユーラリングはその両方の利を比べて、ヒュドラの方の利が少ない、よって不利判定していた。
一般的な感性を持った誰かが見れば、少しぐらいまともに戦わせたげてよぉ! というツッコミがあるだろうが、それに気付くことなくユーラリングは考える。別にヒュドラだけではないし。部屋の主を入れ替えるのにどうすればいいかも兼ねてるし。とか考えて、思いついた。
「……足場の設置と明るさの調節だけでもだいぶ違うか? アイテム……は、侵入者にも使えてしまうから却下するとして……」
そして、いらんことまで思いついてしまった。
「……そういえば、ヒュドラって装備を身に着けられるのか?」
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