第23話 蛇は地下に手を伸ばす
数度のログアウトを間に挟み(もちろん、その間は熟成等の時間はかかるが作業は無い工程を詰め込んでいる)、ポーションを作り続けたユーラリング。リアル時間数日をかけてその作業だけに没頭すれば、ユーラリングでなくとも対応スキルはうなぎ上りだ。
時々金策に(ユーラリング基準で)適当なアクセサリを作ったりする以外は全てポーションの生産に回していれば、当然ながら廃人も真っ青なレベリングとなる。
そして、それだけ一気にレベルを上げれば、ほどなく高難易度ポーションも問題なく作れるようになる訳で――。
「――ふむ。やはり、自由に動けると言うのはいいな」
そう。とうとうユーラリングは、重量無効化ポーションを自力で生産できるようになった。これで実質、ユーラリングの行動の枷が1つ外れたことになる。
ばさり、と大きな翼をマントのように翻し、残り時間が10分を切ったクエスト表示を前に最後の仕上げに入るユーラリング。当然、必要数などとっくに突破し、今は+の%が刻々と積み上がっている状態だ。
クエストの制限時間に合わせる形で仕上がり時間を調節したポーションを瓶詰めして、指定ヵ所に納品する。ぴこん、とまた達成%が上がり、そしてほぼ同時に、残り制限時間が0になった。
『『喪われし神代の墓所洞窟Ⅲ』をクリアしました』
『『喪われし神代の墓所洞窟Ⅱ』がクリアされていません』
『『喪われし神代の墓所洞窟Ⅲ』のクエスト評価は『喪われし神代の墓所洞窟Ⅱ』のクリア後となります』
『『喪われし神代の墓所洞窟Ⅳ』の開始は『喪われし神代の墓所洞窟Ⅲ』の クエスト評価後となります』
『『喪われし神代の墓所洞窟Ⅱ』の凍結状態を解除、再開します』
そんな表示が流れるのを眺め、ふむ、と息を吐きながら重量無効化ポーションを飲むユーラリング。『後回し』にしたから評価が出ないのも、Ⅳがあるのも知っている通りだ。
たぶんⅣは防具だろうな。と思いながら、再び開かれたクエストウィンドウと、僅かに減った達成値及び制限時間の残りを確認し、ユーラリングは気合を入れ直す。
「さて、シズノメ。問題ないか?」
『問題ありませんやで。鉱石中心に準備しております』
「手際が良いな。では、始めるぞ」
『アイサー!』
なお、武器の下りはもちろん『喪われし神代の墓所洞窟Ⅳ』についても想定通り防具を作って収めるものだったので割愛する。ユーラリングがレア判定した装備一式の性能に、シズノメが数度気絶したぐらいだ。
『喪われし神代の墓所洞窟Ⅴ』にしても種類が罠に変わったぐらいで、一応手間取りはしたもののメニューの「罠一覧」を参考にユーラリングはこれを手作りという本来なら間に合わせの手段で突破。
流石に落とし穴や落石と言った部分はマナを消費せざるを得なかったようだが、それにしたって安定した侵入者が有り、『ダンジョン』の定期収入もほどほどに大きくなってきた現在はあまり大した問題では無い。
「…………なるほど、こう来たか」
『? リングサマ、どないしたんです?』
「シズノメ、少し注文は休みだ。英気を養っておけ」
『へ? は、はぁ……。え??』
問題は、『喪われし神代の墓所洞窟Ⅵ』だった。
宝、武器、薬、防具、罠、と来て次に来るのが何かと言えば、それは当然、それらを「使う」者達だろう。つまりは、モンスターだ。
そしてそれを従えるにはどうすればいいか。それもまた、至極単純な事だった。
『
モンスター討伐率
・総合 0%
▽モブ 0%
▽小ボス 0%
▽中ボス 0%
▽ボス 0%
▽裏ボス 0%
▽レア 0%
▽ネームド 0%
設備支配率
・総合 0%
▽レジェンド 0%
▽レア 0%
▽コモン 0%
エリア支配率
・総合 0%
▽エントランス 0%
▽通路 0%
▽部屋 0%
▽特殊施設 0%
第7層(エクストラ階層)戦闘力支配率 0%
エクストラ階層支配猶予時間 残り10:00:00』
つまりは、戦闘力。裏ボスが入っている以上はその出現方法を探すのに頭も使うし、レアやネームドも含むと言う事は幸運も試されるが、基本は戦闘力だ。そしてエクストラ階層――とびっきりの特殊階層は、廃人をもってして悶絶する入手難易度の無限湧きのシンボルですら、珍しくない。
そして、ユーラリングは生産特化の“魔王”だ。当然、その戦闘力はどう頑張ってみても低い。
「……まぁ、一息入れていろ」
未だに要領を得ない感じで混乱した声を零すシズノメにそれだけ言って、ユーラリングは休憩の為の座り込み姿勢から立ち上がった。身に纏うのは毛布を簡単に縫った布服のような何かと、シズノメから贈られたオーブ。そして、自身の足元まである髪と大きな翼、半ばで千切れた尾のみ。
しかしそれでも迷いなく。ユーラリングは、生産部屋から出て行った。
『………………えぇぇぇ――――??????』
後に残されたシズノメに、その真意や狙いが分かる事はなく。
そんな声と共に、ただただこの場の主、というには、圧倒的に説得力が足りない後ろ姿を見送るしか、ないのだった。
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