第19話 英雄の栄光と名声の対価
「で、どうすんだよ」
「ん?」
「こっから先だ。お宝を取り尽くせば自然と正解ルートが出るし大儲けだからって納得して付いてきたけど、突破して、そこからどうすんだ?」
「そりゃまぁ……目指せ、“魔王”の首級だよ? その為にこんな大部隊も大部隊引きつれてこんな辺境くんだりまで来たんだから」
「それだよ、俺が疑問なのは」
「……っていうと?」
「「生まれついての“魔王”」。だって、都市伝説だろ? 時間を空ければ空けるほど手に負えなくなるから、今のうちに狩れるだけ狩る。理屈としては分かるけど……本当にそんなのがいるのかね」
「あぁ、いるよ。それは。確実に」
「……言い切るな」
「建前は、そうでも無きゃこんなあべこべな『ダンジョン』が出来る訳ないよねって話」
「いやまぁそうだが……って、建前?」
「うん。だって、僕が取り逃がしたから」
「………………は?」
「いやぁ、失敗だった。チュートリアルが終わって合流したとこで、左目を【マーリン】が。左翼を【クーホリン】が。右翼を【アレキサンドラ】が。そして尾を僕が。それぞれ狙い定めて奪ったまでは良かったけど、心臓と頭を早い者勝ちにしちゃってさぁ。お互いへの妨害してる間に逃げられちゃったんだよ」
「………………………ちゅー、とりあ、る?」
「うん。僕が誘った知り合いだからね、中身。素質あるなとは思ってたから、思った通りになって万々歳。あぁそうだ。これがその時の尾で作ったやつ。いいでしょ?」
「…………、」
「で、その早い者勝ちはまだまだ有効だから、こうして出張ってきた訳。いやぁ、勝手に美味しくなってくれて流石というか何というか。大軍動かすには相手の美味しさを分かってくれないと困るけど、ライバルが増えても困るからね」
「………………………………なるほどな」
「うん。分かってくれた? 出来れば心臓は欲しいんだけど。翼ぐらいは再生してるかなぁ」
「いいぞ。それどころか、全身くれてやる。
「……どうしたの? 蛇系だから、鱗ぐらいはあげるよ? まぁ
「俺は抜ける」
「え。こんな美味しいのに?」
「……勘違いすんじゃねぇ。お前の下から抜けるっつったんだ」
「えぇー? ここまでの行軍費が無駄になるの?」
「弁償ならしてやる。もうお前にはついて行けねぇ。元々容赦も手加減も一切ない奴だとは思ってたが、ここまで外道だとは思わなかった。俺とお前の道はもう重ならない。お前はしばらくここに居るんだろうから、俺が失せる」
「……強くなるのに勝利する。その為に出来る限りの手段を行使する。努力を重ねて頭を使う。間違ってないよね?」
「あぁ、間違ってないな。間違っては。だがしかし、俺にとっちゃそれは決して正しい事じゃねぇ」
「……間違ってないなら正しい事でしょ。矛盾してるよ? それ」
「だから言っただろうが。もうお前にはついて行けねぇ。俺の下に割り振られた奴は適当に配置しなおしとけばいい。お前のやる事に「俺を巻き込むな」」
「巻き込むとは心外だなぁ……。まぁ、いいよ。じゃあね。元気で……って言うのは変だから、また戦場で?」
「…………お前とは、もう顔を見るのも御免だ」
「……結局、彼の部隊は全員抜けちゃったなぁ」
「どうするんです? 結構戦力的には大損失ですよ」
「そうだねー。背後から強襲してある程度補填はしたけど、これからどうしようかな」
「…………正直その命令と今の発言は私でもドン引きました。分かってますか? あの命令を出したせいで、そのまま全部隊の3分の1が離脱、その内の半分が『独立軍』から脱退したんですよ? もちろん彼……【エウリュトス】とその部隊は含まずに、です」
「分かってるって。うーん、でもここまで来て尻尾撒いて逃げるのも嫌なんだよね。特に相手が相手だし。ライバルに対しても舐められるし」
「第一突入部隊は、本当に話の通りならそろそろアイテムボックスが一杯になる頃ですが……」
「問題はその先なんだけどね。だって何の情報も無いんだ。しかも階層のキリが良い上に3層からヒュドラがいなくなってるって事は、確実に専用ステージで待ち構えてるパターンなんだよ」
「良くお分かりですね」
「伊達にリアル知り合いじゃないからね」
「……で。彼ではありませんが、どうするんです?」
「んー、まぁとりあえず目的は“魔王”の首なんだよね。誰が何を言おうともそこは譲れないんだ。手の届かない所に行くまでに手に入れられるだけ手に入れておきたい」
「手の届かない所、ですか……」
「うん。すごいよ。本当に。だって同士討ちに気を取られていたとはいえ、僕を含めた腐れ縁4人から逃げおおせるんだから。で、まだ数か月なのにこの難易度の『ダンジョン』だ」
「確かに、脅威ではありますが……」
「それにさ、皆気づいてないけど、本当に脅威なのは成長率じゃぁないんだ。本人の強さ、それも確かに鍛え方によっては脅威の一言だろうけど、それ以上に僕も――僕をもってしても、恐ろしい力が備わってる。そしてそれは、もうとっくに芽を出して今もなお成長を続けているんだ。ジャックの豆の木よりもさらに勢いよくね」
「恐ろしい、ですか」
「――あのモンスター群。「どこから来たと思う」?」
「は? それはもちろん『天地の双塔』からでしょう? 現に突入成功報告がいくつも出ていますし」
「そう。この間まで、そう、僕があの“魔王”を取り逃すまで『バベルの塔』と呼ばれていた『ダンジョン』だ。最悪の一角、サタニスが作り上げたね。もちろん君なら、それが何処にあるかは分かっているよね?」
「……何が言いたいのか分かりません。地質的な話ですか?」
「地理的な話だね。だって、此処と『天地の双塔』が、繋がってるんだよ? そしてその道中が、全部『ダンジョン』なんだよ? まだ分からない?」
「………………分かりません」
「困ったな。もう答えみたいなものなのに……まぁいいか。教えてあげる。『ダンジョン』の迷宮も、『独立軍』の砦も、大きさを広げるには限界があるんだよ。支配力が及ぶ範囲には限りがある。だからこそ良い土地を奪い合う訳だ」
「……まさか」
「そうだよ。あの“魔王”には、「それが無い」。いや、実際にはあるのかもしれない。けど、少なくとも今現在の時点で、それが普通とか平均なんて鼻で笑えてしまう程の規模なんだ」
「それは……」
「時間が経てば経つほどあの“魔王”は力をつけるだろう。僕は真名こそ知っているけれど、それでも恐らく届かなくなる程に。だから今のうちに少しでもって訳。分かってくれた?」
「……成程、分かりました。いずれ必ずそう遠くない内に、絶対二度と手に入る事が無くなるモノなのですね」
「そう言う事さ。もちろんそれだけの大物なんだから、発展途上であっても性能的には十分すぎる。…………けど、あれは予想してなかった、かな…………」
「どうしました?」
「撤退しよう。可及的速やかに。あぁ、いつまでたっても連絡が来ないと思ったら、出る直前で強襲されたのかな。でもそうか、読み切れなかった僕のミスだ。あの退屈してる絶対者が、こんな面白い相手を見逃すはずがないんだよ」
「う、わ!? い、今のは――――っ!? 『天地の双塔』のネームドの大群!? 何故それが、そんなものが『ミスルミナ』から出てくるんですか!!?」
「さっき君も言ったところじゃないか。『天地の双塔』と『ミスルミナ』は繋がっている。で、『天地の双塔』の“魔王”サタニスは、退屈してる刹那主義だよ?」
「もっと隠密するべきでしたか……!! 撤退!! 撤退――――っっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます