2. VS ソルペリオール長崎

 アウグスト大阪戦の勝利後、真岡シュピーゲルはリーガ三位の横浜マーレと対決し、敗北。ミラーゲームになりながらも、相手フォワードの一ノ瀬大輔の機動力に対応できず、三失点と言う結果を生み出した。続くはソルペリオール長崎戦。


 カノユユリの都市で生まれ、第四節では真岡シュピーゲルを撃破したクラブだ。後半戦に入って三試合負けなしの長崎に、真岡シュピーゲルはどう戦っていくのか、前半戦での対戦と比較しながら見ていこうと思う。


 まず、フォーメーションは前回対戦と同じく、三-四-二-一のミラーゲーム。真岡シュピーゲルのスターティングメンバーは村瀬行成選手が前回入っていたポジションに、森幸村選手が復帰している。


村瀬選手はベンチからのスタートだ。今回の試合に対して、森幸村選手は彼にとっては初対戦となるソルペリオール長崎に対し、次のように言った。


「すごく守備の堅いチームで、攻撃も早い。俺らは攻撃の早さに惑わされず、落ち着いて対処していきたいって思いますね」


前回、ボールの取りどころにされていたとも言える村瀬選手は今回ベンチスタートとなっている。最初にベンチ入りを知った時、どう感じたのか、という私の問いに、村瀬選手は当時の心境を語る。


「やっぱりか、って思いましたね。前の長崎戦で俺がボールロストしまくってたんで。でももう一度挑戦させてほしいなって、もう一度(清水監督に)信じてもらえないかなってのが、正直なところで」


 実際の試合の中では、森選手はボールを保持するというよりも、積極的にボールを奪おうと寄せてくる長崎の選手に対し、早いタイミングでロングボールを出し前線へボールを送り込むと同時に、ソルペリオール長崎から攻撃の機会を奪うという形で対応していた。


 しかし、前回対戦時よりも強いプレスで長崎は前線の選手たちへと対抗し、真岡シュピーゲルの選手はシュートまで到達できないという展開が続いた。


試合は両者堅い守備を見せ、得点は生まれないかと思われていた延長戦後半一〇分、森のロングパスを受けた佐藤は長崎のミッドフィルダーを一人交わし、ゴールへと戻ろうとするディフェンスよりも先にキーパーの正面に立ち、ゴールネット右上へと的確にシュートを決めた。


 一点のビハインドを負ったソルペリオール長崎はここから積極的な攻撃を仕掛け、センターハーフの選手を交代させると攻撃の起点としてディフェンスを躱す役割を彼らが担い、フォワードのシュートは何度も枠内を捉えた。


 だが真岡シュピーゲルはチームをあげて守備を行い、二〇分以上防衛を続け、ソルペリオール長崎相手に勝利を飾った。審判が試合終了のホイッスルを鳴らすと、真岡市民球場からは歓声が上がった。


 この勝利について、試合後のインタビューで清水監督は真岡シュピーゲルにとってこの勝利はどのような意味を持つか話していた。


「選手たちの自信になったと思いますし、N1はじまってから、着実に選手たちが成長してきたという証明になったと思います」


 報道も、この勝利を真岡シュピーゲルの掴み取った結果と報じたものの、評論家や専門家は日本におけるサッカー衰退の危険性を語るものが殆どであった。


 例えば元日本代表で、現在はサッカー解説者として様々なメディアに出演している瀬頭辰彦さんは次のように語る。


「そもそも日本列島では戦前から横浜と静岡を中心にサッカーが流行ってきたの。それにNリーガだってかつて内地と呼ばれた日本列島内だけで競ってきた。


列島外のチームが進出したのはもっと後なんだから、新参者にやられてどうすんのって話だよ」


 一九六〇年、終戦から一五年が経ち、欧米諸国との関係性が回復したことを記念し、敵性競技と見なされ禁止されていたサッカーを流行らせることを目的として設立されたのが、Nリーガのはじまりであることは周知の事実だと思われる。


加えて、創設三〇周年の際に、日本サッカーのさらなる発展と競争を目的とし、旧外地をホームタウンにするチームの設立が認められ、同時に旧外地出身の選手がプロとして活躍することが認められた。


この規定変更はNリーガの転換点と今も呼ばれているが、我々は再び、八〇年近く続くこのリーガの転換点に立っているのかもしれない。


 日本列島内のチームが弱体化しているのか? この問いの答えよりも早く次の試合というのは訪れるものであり、真岡シュピーゲルは刈谷FKに敗北するものの、ウィクトリア姫路と室蘭フースバル相手に二連勝を果たし、勝ち点は二試合合計で四点分を獲得した。


 その後はラッテ別海、横浜プテロスに敗北し、二連敗を経験する。特にリーガ最下位のラッテ別海を相手に敗北したのは痛手だっただろう。サポーターもまさか敗北するとは思っていなかったのか、悔しさを選手にぶつける人もいた。


 悔しい思いは選手も同じだ。ラッテ別海戦後の真岡市民球場ロッカールームではキャプテンの水田翔選手が試合を戦い抜いた選手たちへ次の試合に向けて勝利を掴もうと語っていたが、その目には涙が浮かんでいたほどだ。


後のインタビューで私が彼にこの話をしたところ、水田選手は見られていたとは、と笑うと


「そりゃあ悔しいじゃないですか。俺たちの方が順調だったのに、負けるなんて。後は負け方。俺がどんな負け方でも悔しいなって思うタイプだけど、あの時は特に悔しかった。そして、キャプテンのくせして皆を活躍させてやれなかったのが、申し訳なかった」


 ラッテ別海戦での真岡シュピーゲルは積極的に攻撃を仕掛けたものの、別海はゴールキーパーのイングラムを中心に守備を展開し、キーパーと一対一の展開を真岡シュピーゲルに作らせなかった。


 そもそも、ラッテ別海が最下位に沈んでいる原因は得点しきれず延長戦を経てPK戦での敗北、という形が多いためであり、他国のようにドローという引き分けで試合終了というルールがこのリーガにあれば、もう少し良い順位を獲得していてもおかしくない。


 鉄壁が売りの彼らへの敗因は、延長戦前半八分、ディフェンスの小林寛樹が相手フォワードの遠藤智孝とペナルティエリア内で接触。


ラッテ別海にPKを与えてしまったこともあるだろう。ラッテ別海はこのチャンスをものにし、真岡シュピーゲルは延長戦というモラトリアムの中で試合を覆すほどの力を発揮できなかった。


 元々ラッテ別海のフォーメーションは五-四-一。攻撃面では数的不利が発生しやすくなるが、ラッテ別海側も攻撃に転じる際には一定の人数が上がってくるのに時間をかけてしまう。この攻撃の遅さを弱点となっている。


 こうした分かりやすい弱点を逆手にとって戦う、それが出来なかったという事実に、選手たちが悔しさを感じるのも、どこか分かる気がする。

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