日常におけるノイズの必然性

私の学校生活はなんとも味気ない。

授業態度はよく言えば真面目。悪く言えば他の人のような友達同士の秘密のメッセージ交換なんてものはなく、変化に乏しい。

強いて変化を挙げるとすれば、昼休みだろうか。

昼休みのチャイムが鳴ると同時に、私は持参したお弁当を片手に秘密の場所へと行く。

学校の屋上?いえいえ、昨今の学校では入るのが禁止されていたりなどするから先生に怒られるリスクがあるし、万が一OKでも怒られなくても、そんな場所混むに決まっている。

私のような高度ボッチの求める場所は決まっている。

人が来なくて、施錠もされていない。それでいて先生たちがまず来ない場所。

そう、それ即ち――


「今日も今日とて、備品倉庫は落ち着くねぇ」


慣れた動作で積み上げられた予備の椅子の一脚を引っ張り出し、私はそこに座る。

そう、ここは備品倉庫。

学校の机や椅子を一時的に保管しておくところだ。

普通の学校なら空き教室などにあるのかもしれないけれど、私の学校では校舎横のブリキ小屋の中にある。

ここに入れるのを見つけたのは入学して間もない頃だけれど、備品の入れ替えはそれなりにあるせいか、施錠はしていなかった。

ただ、朝方や夕方には用務員さんが出入りしているのを見たことはある。

要するによく使うから朝夕で鍵の開け閉めをしているのだろう。

そんな都合であるから、竹ぼうきがあったりバケツがあったりなんかするけれど、便所飯よりはだいぶ人道的な食事環境といえるだろう。

ここでは一人だからこそ私は饒舌になる。

もっぱら、独り言のメインは当日の弁当の出来に関してだ。


「あら、この卵焼き上手くできてる♪ふふっ、やっぱりじゃこを入れると――」だとか。

「既製品のミートボールって不思議と安心するおいしさだよね」だとか。


そんな感じで一人寂しく――もとい、高貴に食事を楽しんでいたところ、ふいに物音がした。


ドンッ!ガタッ! ガタガタッ!


視線を物音がする方に向けると、なるほどどうやら喧嘩のようだった。


『おいっ!お前どういうことだよっ!』

『っせよ!俺はもうやめるんだよっ!』

『なんでだよっ!俺たち、ここまで――』


おお、どうやらやけにヒートアップしていらっしゃる様子の男子二人組。

おおよそ丈夫都は言い難いブリキ小屋の壁のところで騒いでいるようで、揺れる揺れる。

最初はこっそりやり過ごすことを検討していたけれど、何度か揺れている内に謎の埃のようなものまで落ちてき始めた。

これはもう、まったり食事というノリでもない。


(仕方ない。退散しよっ……)


半分ほど食べた弁当をいそいそと片付け、こっそりと小屋の出口へと向かう。

幸い、二人はヒートアップしていらっしゃる様子。

私一人が抜け出したところで気づかないだろうし、気づいても気まずさでスルーいただけるだろう。

喧嘩を他人に聞かれるほど気まずいこともないからね。

思考を実行に移すべく、私は小屋の出口の引き戸に手をかける。

でも、壁が揺れているせいか、引き戸は思いのほか立て付けが悪くなっていてなかなか開かない。


「っ!?開かない!?」


気づかれないようにガチャつくこと数分、ようやっと引き戸が開き、私は思わず喜びの声を上げる。


「ふっー!やっと開いたぁ!」


ガチャついていた分、フラストレーションがたまっていたのか、思いのほか大きな声が出てしまう。

ちょうど同じタイミングで喧嘩の声も止んでしまった。

恐る恐る小屋の横に目を向けると――

そこには髪の毛を茶髪にした男子と、ちょうど今朝がた見かけた男性アイドル似のギター男子が。


(あ、これ絶対に巻き込まれたら面倒なヤツだ)


私では珍しい速度で思考が巡り、さっさと逃げろとの結果が出力される。

他人行儀な笑顔を二人に向けつつ、私は校舎へと足を向けようとする。


「あ、あはは、お構いなくぅ~」

「待てっ!」

「はぇ!?」


声をかけてきたのはギター男子。

思わず硬直している私に近づくと、結構な非難がましい視線を送る連れを無視しつつ、彼は私の手を取る。


「俺、此奴とバンド組むから。」


その時、私の日常にノイズが入ったのをありありと感じた。

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