第4話 男性というのは女性の胸に惹かれるものなのだろう?



 会長に、勉強を教えてくれと頼まれた。

 勉強を教えることに対しての、俺のメリット……つまり会長に勉強を教える見返りは、なにがあるのかと俺は問い返した。


 せいぜい、ちょっとしたいじわるのつもりだったのだが……


「む……?」


 聞き間違いでなければ、会長は今……胸くらいなら触ってもいい、と言ったのだ。

 そんな言葉を、会長が言うはずない。きっと俺の聞き間違いだ……そう思ったが。


 目の前で顔を赤らめて、自分の身体を抱きしめるようにして胸を隠している会長の姿に、今のは幻聴ではないことを思い知った。


「そ、そんなに見ないでくれるか……」


「す、すみません!」


 どうやら俺は、知らないうちに会長の胸を見てしまっていたようだ。

 会長の言葉にとっさに顔を背けるが、自分から触ってもいいと言っといて今のは不可抗力じゃないだろうか。


 だってあんなこと言われたら、誰だって見ちゃうだろう。しかもこちとら、思春期真っ盛りの男子高校生だぞ。


「えっ、と……会長、本気で、言ってます?」


「私は嘘や冗談が嫌いだ」


 顔を背けていても、どうしても見てしまう。横目で、チラチラと視線が誘導されてしまう。


 制服を押し上げるほどに存在感を思わせるそれは、制服の上からでもなるほど立派なものをお持ちだと見て取れる。しかも、腕で隠しているのが余計に強調されて見える。

 それを触っていいと言われるなど、嘘や冗談だと思うほうが自然だ。


「な、なんでそうなるんですか!」


 俺は視線を向けないように頑張りながら、なんとか言葉を絞り出す。

 なにかしゃべってないと、すぐに視線が誘導されてしまう。意識を別に向けるのだ。


「その……恥ずかしながら、私は男女の付き合いをしたことがない。だから、男性がなにを喜ぶのか思い浮かばなくてな」


「だ、だからってなんで胸なんです!」


「男性というのは女性の胸に惹かれるものなのだろう? これくらいは知ってる」


「極端すぎる!」


 どうやら会長は、俺が思っている以上に……常識知らずな面があるのかもしれない。

 だって、勉強を教える見返りに胸を触らせるとか……正気の沙汰ではない。


 しかも、なんてこった……この見た目で、異性との交際経験がないだと!? 先ほど自分で言っていたから、これは嘘や冗談ではないのだろう。

 こんなん、ある種の天然記念物じゃないか!?


「……っ」


 俺がなかなかイエスの返事をしないことに業を煮やしたのか、会長は立ち上がり……座ったままの俺へと、距離を詰めた。


「も、もしかして……見返りが、不服だったか?」


「あ、え……いやぁ……」


 まさか、俺が返事をしない理由が……今の見返りが不服だと感じている、と思われているとは。

 不服なわけないじゃないか! 今すぐにでも飛びつきたいよ!


 でも、でもだ。ここでがっついている様子を見せたら……なんというか、うまく言えないがダメになる気がする。


「あ、安心しろ。私は自画自賛するわけではないが……同級生の中でも、それなりに大きい方なのではないかと思っている。悪ふざけで触ってくる友人もいるのだが、その友人基準ならば柔らかさも問題ないぞ」


「……」


 顔を赤らめたまま、なにやらとんでもないことを言い始めた会長。

 お、大きさ……や、柔らかさ!? この人、自分がなにを言っているのかわかっているのか!?


 ダメだと、わかっている。なのに、俺の視線はもはや、会長の胸に釘付けになってしまっていた。あんなん言われて見るな言う方が無理だろ!

 見ない方が無作法というもの!


「いや、でも、やっぱり、勉強の見返りでむ、胸って言うのは、へ、変って言うか……」


「……ずっと胸を凝視されながら言われてもな」


「す、すみません!」


 もう、会長にバレてしまっている。胸を見ていることがバレてしまっている。

 だからか、反射的に俺は立ち上がった。目の前には会長の顔。こうすれば、なんとか視線を外すことはできないか……そんな思いからだ。でも、やっぱり見ちゃう。


 女性は、男性のそういう視線に敏感……とは聞いたことがあるけど。

 これはさすがに、どんな鈍感でも気づくだろうってくらい、見ちゃっている。


「……それでも、だめか?」


 しかもここにきて、会長からの追撃。顔を赤らめたまま、こてんと首をかわいらしく傾けている。

 しかも……今更気づいたら、会長はあまり背が高くない。


 いや、これは語弊か。なんせ俺が身長は180越えているのだ。その俺より少し低いってだけで、むしろ女性の中では高い方なのだ。

 だが、俺より低いことに変わりはない。


 なので、俺を見るその目は、俺を見上げる形になり……意図していないだろうが、上目遣いになってしまっている。


「ぐっ……」


 会長の胸という欲望や、目の前の会長のかわいらしさ……それらが、俺の中で渦巻いているのだ。


 ……勉強の件は驚きはしたものの、この話は受けるつもりではあった。

 取り柄がないから勉強だけを頑張ってきた俺が、会長に目をかけられた。しかもその勉強で、力を貸してくれと言うのだ。

 こんなに嬉しいことはない。


 だから見返りは、さっきも思ったように単なるいじわるのつもりだった。

 だったのに……


(どうして、こんなことに……!)


 ぶっちゃけ自業自得ではある。それでも、胸を触らせてくれるなんて言い出した会長にも、非はあると思いたい。

 ここで俺が、首を縦に振れば……会長は本当に、あの胸を……触らせて、くれるのだろうか。


 いや、きっと触らせてくれる。


「ごくっ……」


 元より受けるつもりだった話。それに加えて、見返りに胸を触らせてくれるという。

 ならば、なにを遠慮する必要がある。どうするかなんてそんなの、わかりきったことだ。


 だから俺は……逸る気持ちを落ち着けながら、口を開いた。

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