第2話 多少えっちなことにも目をつぶろう
「……え?」
聞き違い……だろうか。いや、聞き違いであったとしてもだ。
目の前の状況をいったい、どう説明する。
俺は生徒会室に呼び出された。その先では、生徒会長と二人きり。
呼び出された理由はと言えば、まさか会長が俺に頼みがあるのだという。
その頼みの内容が……
『勉強を教えてください!!!』
俺に勉強を教えてくれと、そう言うのだ。
……そして目の前には、俺に土下座をしている、生徒会長
まさか、出会って数日の……いや見かけてから数日の生徒会長から、土下座をされるなんて思わなかった。
そもそも、人から土下座をされたのなんて初めてだ。
「……ぁ、か、顔を上げてください!」
いかんいかん、あまりの衝撃映像に、思考が停止してしまっていた。
ともかく、このまま会長を土下座されたままにはできない。いくら二人しかいないとはいえ、部屋に誰か入ってきてこんな光景を見られたら事だ。
俺の言葉に、会長はゆっくりと顔を上げる。
あぁ、あのきれいな黒髪が、無造作に地面に散らばって……あの脚も、地面にぺたりとついちゃって。
「えぇと……とりあえず、土下座やめてください」
「やめたら、勉強教えてくれるか?」
「……諸々を確認するために、とりあえずやめてください」
いきなりの土下座に面食らってしまったが、そもそも……だ。俺には気になることが、聞きたいことが山ほどある。
それを確認するためにも、いろいろ質問したい。
土下座だと、単純に聞きにくいのだ。
「……わかった。すまない、見苦しい所を見せた」
えぇ、本当に。
すでに切り替えたのか、立ち上がる会長は凛とした佇まいに戻っている。
そして、生徒会長の机に戻っていき、席に座った。
「かけたまえ」
「あ、はい」
今更威厳たっぷりの姿を見せられても、一分前の光景が頭から離れない。
とりあえず俺は、設置してあるソファーへと腰掛ける。
わぁ、ふっかふか。いいもんだなぁこれ。
「で、勉強教えてください」
「いや、さっきも言ったけどまずいろいろ確認させてくださいね!」
机に両肘をつき、組んだ手の甲に顎を乗せている会長は、とてもかっこいいポーズでとてもかっこ悪いことを言っていた。
おっかしいなぁ……入学式の日に見た会長は、こんなんじゃなかったんだが……
まあ、とにかくだ。俺の疑問を解消させてもらうとしよう。
「ええと……そもそもの問題なんですけど……」
「あぁ、なんでも聞いてくれ。えっちなこと以外なら答えるぞ。
勉強を教わるためなら、多少えっちなことにも目をつぶろう」
この人、真面目な顔してえっちとか言い始めたよ……スルーしていいかな。
勉強のためにえっちな質問にも答えるとか、どんだけ勉強教えて欲しいんだよ。
「…………なんで、勉強を教わりたいんですか?」
「それはもちろん、私が勉強ができないからだが?」
……だが? って言われてもなぁ……
なんて曇りのない眼をしているんだ。
あれぇ? おっかしいなぁ。あれぇ? 会話のキャッチボールできてる?
「勉強ができないって……会長は生徒会長、なんですよね」
「うむ」
「なのに勉強ができないのは、おかしくないですか?」
俺は、生徒会長というものについて深く知っているわけではない。
でも……少なくとも、勉強できない人がなれるものだとは思えない。優秀な生徒が選ばれるもののはずだ。
それに、会長の評判は聞いている。
成績優秀……その一言に尽きる。入学したときから成績はトップで、新入生代表の挨拶も務めた。
そこから一年生にして生徒会のメンバーになり、一年後には二年生で生徒会長に。
そして、学校初二年連続生徒会長を果たしたということも。
「会長の経歴を考えたら、勉強できないと思うほうが無理なんですが」
「そうだな……そうかもしれない。だが、私はみんなが思っているような人物ではない。
少なくとも、みんなが思っているより勉強、できない」
すげえ、言い切った。
しかし、勉強できないのに生徒会長かぁ……それも二年連続。
もしかして、あれか……賄賂的な。
「言っておくが、私の成績が優秀なのは事実だ。賄賂とかしていない」
うわぉ、心を読まれた。
「あの、話が見えないんですが……? 今自分で成績優勝って」
「そうだな、回りくどいのはよそう。
私には、従兄弟がいてな……小さい頃から慕っていた、兄のような存在だ。彼に勉強を教わり、私はテスト等で好成績を収めていた。
だが、身についたものが持続しないのだ。すぐ忘れちゃう。だから、大事の前にはお兄ちゃんに、勉強を教わっていたんだ」
自分の事情を話す会長。
なんか後半にいくにつれて言葉が柔らかくなっていったが、それはいい。
つまり……会長は勉強ができないが、従兄弟のお兄さんに勉強を教えてもらい。一夜漬けみたいな形で、テストに望んでいたと。
その結果、テストの"成績は"いい。
入学のときも、それで新入生代表になるほどの点数を取ったのか。
「なら、そのお兄さんに教わればいいんじゃ」
「あぁ……だが、運命は残酷だ。お兄ちゃんはこの春、遠くの大学に通うために引っ越してしまった。もう今までみたいに近くにいるから会えるなんてことはない」
頭を抱える会長。まるで、絶望という字が浮かんでくるようだ。
残酷とか言っているけど、勉強を教えてくれていたお兄さんが遠くに引っ越したんで勉強教えてくれる人がいなくなった、と。
正直、会長が頭良くないって話自体まだ鵜呑みにできてないが……
……伊達や酔狂で、あんな土下座はできない。
「……まあ、状況はわかりました。じゃあ、なんで俺なんですか」
勉強を教えてくれる人を探しているのはわかった。
なら、その相手がなぜ俺なのか。俺に白羽の矢が立ったその理由はなんなのか。
それを聞くと、会長は口角を釣り上げて笑った。
「それはキミが、新入生代表に選ばれる成績の持ち主だからだよ。石動
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます