土下座から始まるカテキョ生活! 〜俺が完璧生徒会長の家庭教師にって本気ですか!?〜
白い彗星
第一章 生徒会長との秘密の共有
第1話 キミに一つ、頼みがあるんだ
天は二物を与えず、ということわざがある。
一人の人間に多くの才能を与えることはない、人には優れた面と劣った面がある、いいところばかり揃った人はいない……
こういった意味で使われる。完璧な人間なんて世の中にはいないし、実際にいないと思いたいのが人というものだ。
俺のように足りないものばかりの人間は……つくづく、そう思う。
実際問題、小学校でも中学生でも、優れたところがある人もどこか欠点があった。欠点のない人間なんていない。それが人間だし、その人の愛嬌のある部分だとも思う。
そう思っていた……この高校に、入学するまでは。
「新入生の皆さん、はじめまして。生徒会長の
新入生の入学式……そこで壇上に立つ人物を見て俺は、目を奪われた。
いや、きっと俺だけではない。誰もがその人物に目を奪われ、呼吸も忘れ……彼女の声を聞き逃すまいと、神経を集中させていたはずだ。
生徒会長、若草 美陽。それが彼女の名前だ。
これは陳腐な表現になってしまうかもしれないが……彼女の第一印象はまさに、容姿端麗。美人という言葉すら生ぬるいほどに感じた。
遠目でもわかる、整った顔。壇上に登る際に見えた身体は、細身だが女性である部分はしっかりと主張している。
腰まで伸びた黒色の髪は光沢を感じ、凛とした鋭い声は瞬く間に体育館中に響き渡る。
「……これから、この学び舎で大いに学び、友と過ごし、成長し、己を高めてください」
不思議だ。校長のスピーチとかは退屈で仕方がなかったのに、彼女の言葉はすんなりと耳に入ってくる。
それは、彼女の容姿から目が離せずとも自然と言葉が入ってくる……彼女の言葉には、人を惹きつける力があるのだ。
彼女に送られる拍手は、自然と……この場にいる全員が送った、賞賛だった。
「続いて、新入生代表のスピーチを……」
彼女が去った後には、拍手以外になにも残っていないのに……俺はそれから少しの間、その場から動くことが出来なかった。
――――――
「なあ、あの生徒会長すっげー美人だったな!」
「な! これから楽しくなりそうだ!」
体育館から教室へ戻る間も、生徒の間では彼女の話でもちきりだった。
正直、校長の話や新入生代表のスピーチなど、記憶に残っている人はいるのかと思うほどだ。
あんな完璧生徒会長のスピーチがあっては、その前の話は消えてしまうしその後のスピーチなど入ってこない。
かくいう俺も、そうだ。
「若草 美陽さん、か」
生徒会長とはいえ、俺たちは一年生で彼女は三年生。関わることなんてほとんどないだろう。
そう思いながら、教室へと足を踏み入れていった。
教室でも、これからこのクラスで過ごす仲間と話す主な話題は、生徒会長のことばかりだった。
「おーい、座れー」
それから、担任教師が入って来るまで話は続き……俺たちは軽い自己紹介を終え、この日は帰宅した。
高校の初登校日。それは俺にとって、一つの出会いが訪れる日となったのだ。
――――――
そして彼女は、この学校ではとんでもない有名人だった。
生徒も教師も、誰もが彼女を絶賛する。学内を歩けば、誰かが彼女のことを噂している……そう思ってしまうくらいには。
若草 美陽。成績優秀、才色兼備、スポーツ万能……なにをやらせても非の打ち所がない。
おまけに、これだけの要素を兼ね備えていながら嫌味なところなど一つもなく、男女問わず気さくに話しかけるため人気も高い。
つまるところ性格がいいのだ。
凛とした佇まいに憧れる者も多く、その姿勢は生徒だけでなく教師すらもお手本にするとかしないとか。
告白されたことは数知れず。しかしそのことごとくを断ってきたため、別名『鉄の女王』の異名を持つとか持たないとか。
頭がよく、運動もでき、スタイルも抜群で……性格もいい。彼女を悪く言う人など存在しないほどに、完璧な存在。
そんな絵に描いたような人間が、信じられないことに存在する。
……天は二物を与えず。このことわざが嘘であることを、俺はこの日思い知ったのだ。
――――――
……そう、思い知ったはずだった。この世に、完璧と呼ばれる人間は確かに存在するのだと。
後日、俺はその認識が誤りだったことを、思い知らされた。
俺は今、生徒会室に呼び出されていた。
入学してから数日……呼び出しをくらうようなことをした覚えのない俺は、困惑のまま生徒会室に訪れた。
扉をノックして、返事があり……扉を開く。
「……っ」
部屋の中には……あの生徒会長、若草 美陽がいた。
凛とした立ち姿……窓際に立つその姿は、思わず見惚れてしまうほどだ。
これだけで、一枚の絵画になるだろう。
「……急に呼び出してすまない、
「! い、いえ」
振り向いた生徒会長は、鋭い眼光で俺を見た。
その視線が、凛とした声が……俺を射抜き、嫌でも姿勢を正してしまう。
こ、怖い……美人だけど、めちゃくちゃ怖い。なんだこの迫力は。
生徒会室には他に誰もおらず、ここには俺と会長の二人だけ。
女の人と、それもこんな美人と二人きりなのに。全然ドキドキしない……
いや、別の意味でドキドキはしているんだけど。
「キミに一つ、頼みがあるんだ」
「た、頼み?」
そんな会長の口から出てきたのは、思いもしない言葉だった。
会長が、俺なんかに頼み? なにかの間違いでは? それとも聞き違いか?
それらを問うよりも先に、会長は一歩一歩と足を進めて……俺の目の前に、立つ。
距離が、近い。入学式の日は壇上の上に立っている姿を見ることしかできなかったのに、今はこうして手を伸ばせば届くほどの距離に、会長がいる。
「あ、あの……?」
成績優秀、才色兼備、スポーツ万能……なにをやらせても非の打ち所がない、完璧な生徒会長。
消そうにも消せない存在感……
いったい会長の頼みとは、なんなのか。あの完璧な会長が、俺に頼むこととは。
いろいろな考えが巡る。……そんな俺の気持ちなど知らない会長は、覚悟を決めたように俺を見た。
「頼む……」
凛と立つ会長が、その小さな唇を動かす。会長の唇が動く度、視線が吸い寄せられてしまう。
鋭い眼光が俺を見つめ、すさまじいまでの威圧感を放っている生徒会長が、今……
「勉強を教えてください!!!」
……俺の目の前で、見事なまでの土下座を披露している。
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