第13話
丁度、真上に上った太陽から降り注ぐ光が容赦なく照り付ける荒野の大地はひび割れており、そこに生える植物はまばらにしか見えない。風は瞬く間に熱風となり、砂を巻き上げては口の中のわずかな水分すら奪ってしまう。これほどまでに生き物を拒む土地も珍しい。だが、人間というのは不思議なもので、そのような土地を、知恵という力を使って強引に突破しようとするのだ。それでも、ここを通れるのはある程度の財力を持って装備を整えることのできる商人のみ、あとはその商人をつけ狙う命知らずの盗賊たちなのであった。
荒野に甲高い笛の音が鳴り響き、岩の木陰で体を休めていた少女はその音で目が覚めた。彼女のはまだ若くみえる。二十歳手前で、背の真ん中あたりまで伸ばした灰色の髪は少しも脂ぎっておらず艶がある。青い瞳は晴天の青空のように澄んでおり、見る者を魅了し、絹のように白い肌と相まって彼女の美貌を掻き立てていた。そんな彼女は砂除けのマントに身を包み込み、日射を避けるためフードを深く被っている。軽く通気性の良い素材で織られた布で作られた衣服を纏えば、この極限の大地でもいくばか活動することができた。そんな彼女の生業は、傭兵そして今は盗賊団の一本鎗として働いていた。
笛の音が示すのは哨戒役の盗賊が襲うに値する商人の一行を見つけたということだ。そして、少女の役割は実行役つまり商人を襲う役割。これまでに幾度となくそれをこなしてきた彼女は一末の緊張すら顔に出さず、脇に置いてある黒塗りの短槍を手に取って、近づいてくる馬の蹄と馬車の車輪が石を弾く音に耳を傾けた。じっと岩の陰で潜み、商人の一行が岩のそばを通った時、彼女は木陰から飛び出した。まずは馬の上に跨って長剣を腰にぶら下げていた、護衛の首筋めがけて穂を振り下ろした。首を失った男の体は首の切れ目から噴水のような血をまき散らしながら、馬はそのまま走り抜けていき、十メートル程さきで馬から転げ落ちた。
次に少女が狙ったのは馬車だった。男を殺してすぐ、槍を振りって穂の先を車輪に当ててやると、木でできたそれはものの見事にすぐ音を立てて壊れた。バランスを崩した馬車は荷台に積んだ宝石をぶち負けながら、派手に転び中から太った商人が這い出てきた。すぐに護衛の者が数人で、少女を取り囲んだが、まるで稲妻のような槍の動きに対応できるものはいなく、すぐに全員首を失った。彼女は残る商人の命乞いを無視して首を切り落とすと、懐から笛を取り出し、仕事の完了を意味する笛の音を甲高く荒野に響かせたのだった。
今回は大量の宝石や装飾品に武器といったものを多く持つ大物だったらしく、遠くにいるはずの哨戒がかりの盗賊も馬に鞭打って駆け付けてきた。少女は盗賊たちが宝石をどう配分するかをぎらついた目で話し合う背中を黙って見つめていた。彼女は傭兵であり、その取り分は仕事の出来次第でなく固定給で支払われていた。だから、盗賊の取り分が少なかろうが多かろうが彼女に支払われる報酬の値が変わることはない。そのため、いつも少女は欲とは無縁な素振りを見せていた。だが、今日ばかりは違うようだった。彼女が静かに短槍を手にして、彼らに近づいていることを盗賊たちは気が付いていなかった。
刹那、一人の首が吹き飛んだ。宝石の山が鮮血に染まり、その瞬間盗賊たちの話し声が止む。状況が理解できぬまま、もう一人が少女の槍に心臓を貫かれて、何かを声にならない声で叫びながら事切れた。一人、動きの素早い者が剣を鞘から引き抜いたが、剣の刃ごと胸を左上から右下に掛けて切り落とされ、血の混じった肺と肺胞を大地にぶち負けながら絶命した。ほんの十秒にも満たない時間の間に三人を殺した彼女は残りの盗賊に目をやると、彼らは恐怖に震えあがって戦うどころではなさそうだった。少女は、そんな彼らを苦しませることなく正確に首を切り落としていき、乾ききった大地に血の海が染み渡った。
少女の目当ては宝石ではなかった。彼女は血みどろになった宝石の山から盗賊たちが見向きもしなかった、木製の筒を取り出した。みすぼらしい見た目をした筒だが、よくみると王家の紋章が焼印されている。彼女は、蓋を開けて中身を一目すると、満足そうな笑みを浮かべてそれを懐にしまった。太陽が照り付ける荒野で生きることのできる者は少ない。それは容赦ない太陽の光が降り注ぎ続けるからという理由だけでは無いのだ。ここには盗賊という名の毒蛇が多く住み着き、訪れた者に容赦なく牙を剥く。そして、時としてその毒蛇は空から獲物を探し、狩るその瞬間まで爪を隠す鷹に狙われる。少女は間違いなく鷹であった。
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