第10話

 風が吹けば乾いた砂が舞い上がる荒野だった。見渡す限りにまばらにしか木が生えていない乾燥したサバンナが続いている。

 一人の少女が猛獣が巣食うサバンナの真ん中、道なき道を歩いていた。ベージュ色のローブに身を包み込み、腰には薬や携帯食料やらが入ったポーチが付けられている。

 彼女の表情はまだ幼く見える。背の真ん中あたりまで伸ばした灰色の髪には艶があり、歩みを向ける先を見つめる彼女の瞳はとても澄んだ青色をしていた。

 こんなサバンナの真っただ中、猛獣たちに見つめられているというのに彼女は武器らしきものを持ち合わせていなかった。なのに、少女は少しも恐れることなく、猛獣の視線を気にすることなく歩みを進めている。

 少女は決して世間知らずなわけではなかった。たとえ相手が獣だろうと、この世の全てに対して話し合いで平和的解決が出来るとは思ってはいないし、むしろ彼女は大抵の面倒ごとは力で解決するべきという考えを持っていた。

 事実、少女が猛獣たちに襲われないのは、彼女が常に周りを威嚇しているからだった。

 少女の姿をよく見るとところどころ変なところがある。手足が白い鱗に覆われており、先からは宝石のような碧さの鋭く長い爪が生えている。ローブの下からは、竜の翼のようなものが顔を覗かせているのだった。

 彼女は見ての通り人間では無い、竜人という人間にも竜にも慣れない孤独な種族に属している。だが、彼女が持つ力は本物の竜に迫るどころか、それすらも超えるものだった。

 今このサバンナでの絶対的強者は年端もいかぬこの少女で、いくら群れだろうと彼女を襲おうと企む獣を一匹としていない。

 少女は、力を振りかざしながら次の国へと闊歩する。そして、少女は獣と一切の刃を交えることなくサバンナの荒野を渡り切ったのだった

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