第7話
まさに摩天楼、立ち並ぶビルを遠くから見つめる少女がいくら竜だとしてあまりなちっぽけの存在だった。でもそれら全てを灰に戻す力を彼女は有していた。
夜空の星を打ち消すほどの光で煌びやかに夜の街を照らすビル群。青白い光が人工河の川面に反射して、人の手で作られたとは到底信じられない胸の高鳴りを感じさせる夜景を作り上げていた。
少女は河一つ挟んだ先の遊歩道を歩きながら、立ち並ぶビルの風景をつまらなさそうに見つめていた。
少女の姿は年相応なものでは決してなかった。胴部に高性能なセラミックプレートが三枚も入った頑丈な防弾リグを付け、沢山あるポケットには小銃用の弾倉が五つと拳銃用の小さな弾倉が二つそしてリンゴの形をした手榴弾が二つ入っていた。両手で抱きかかえるように持っているのは高性能バトルライフル。引き金を引くだけで、人の体など簡単に粉々にできる凶悪な代物だった。取り付けられたサイトのガラス面が光を反射して、時折光り輝いて見えるがその光は知るものが見たら恐怖で居ても立ってもいられないだろう。さらに彼女の耳には通信機兼鼓膜を銃声から保護するためのイヤーマフが付けられていた。
装備品だけ見れば、どこかの国の軍隊のように見える彼女の正体は違法に雇われて働く傭兵だった。高性能な武器を持った殺し屋だといって何ら違いはない存在だ。
そんな血も涙も持ち合わせることを許されない傭兵をしている彼女の顔はまだ幼くみえる。夜風に靡く艶のある灰色の髪は草原で無邪気にはしゃぐ子供の姿と重ねることができ、空のように澄んだ青い瞳は戦争や憎しみを知らない無垢なものだった。
しかし、現実はそうではなかった。
少女は幾度となく任務を成功させてきた。つもり、死んでも償えないぐらい多くの人々を殺してきたのだ。普通の人ならば、罪悪感に圧し潰されて平常心を保つことすらできないだろうが、彼女は人々をいたずらに殺す行為に心を痛めたことはなかったし、これからもきっとないだろう。
少女は突然、歩くのを止めた。そして、振り返るとそこに立っている貴方と目があった。そして、彼女はほんの一瞬だけ年相応な可愛らしい笑みを貴方に向けると、彼女の姿はみるみるうちに変わっていった。
少女は人間の姿を保ったまま、竜へと変身したのだ。手足は装甲のような頑丈で白い一枚岩の鱗に覆われており、手足の先からは碧く鋭い鈎爪が伸びていた。そして、背からは自分の背丈以上の大きさがある竜の翼を生やしていた。
彼女は貴方が恐怖心に任せて放つ銃弾の嵐の中を、顔色一つ変えずに貴方に向かって歩き出した。
銃弾は彼女に当たりはするものの、鱗と防弾リグはその銃弾を弾くのに十分すぎる防御力を持っていた。
少女が貴方の目の前に来た時、貴方が手にしている拳銃の弾丸はとうに尽きていた。
そして彼女は貴方に向けて言葉を発しようと、口を開けたのだった。
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