第6話

 竜の少女はあまりの眩しさに目をつむってしまった。

 見渡す限りの銀世界がどこまで延々と続いている。膝ぐらいの高さまで降り積もっている雪は、あるはずの道をすっかりと覆い隠してしまっていた。木の一本どこから草の一筋すら見つけることの出来ない雪原に道しるべとなるものを一切なく、頼りない方位磁石だけが唯一の道しるべとなる。

 一人の少女が、雪原に深い足跡を残しながら砕氷船のように歩みを進めていた。旅人がよく好むベージュ色のフード付きローブに身を包み込み、腰にはいくつかの袋が付いたポーチを付けていた。その袋の中には医薬品やどこの国でも高額で換金できる宝石や装飾品そして不味いで有名な携帯食が数日分入っている。そして、彼女の背には一振りの槍が拵えらえていた。その槍は両刃のどこの国でも見られるような普通な形状だが、刃も柄も漆黒で塗りたくられておりどことなく不気味なものだった。

 一人で旅を続けている彼女の表情はまだ若い。しかし、瞳にはそれなりの修羅場を乗り越えてきた鋭い眼光が光っていた。さらに言えば彼女は人間ではない。

 ローブの下で暖を取っている彼女の両腕、両脚はまるで装甲のような見た目の白い鱗で覆われており、手足の先からは碧く鋭い鈎爪が生えている。背中からは自分の背丈よりも大きな竜の翼が生えており、ローブの下端から翼の先が顔を覗かせていた。

 少女は竜人という、人間からは魔物だと見なされ攻撃対象となり、竜からは半端モノだと蔑まれる孤独な種族だった。

 彼女は雪原に足跡を付けながらあと半日歩けば辿り付くと聞いた国へと向かっていた。

 その国は冬になると猛吹雪に見舞われ、そとの国との貿易が一切出来なくなる。そのため、冬の間は少女のような魔物染みた者でも重要な労働力として好待遇で歓迎されるのだという。

 これは彼女にとって願ってもみなかった夢のような国だ。少女は期待を胸いっぱいに膨らませながら、はやる気持ちのままに歩みを進める。

 少女は変われるかもしれないと希望を抱いていた。というのも彼女は人を殺したことがあった。それも沢山だ、数えきれないぐらい殺した。国を滅ぼしたことだってある。それがまるっきり環境のせいではなく自分のせいだという自覚はあるが、魔物の姿をしているからというだけで暴力を振るわれたことが原因の一つでは無いかとどうしても思ってしまう。

 そして、いま向かっている国は聞くところによると魔物の襲撃というものが今でかつて一度もなく、魔物の力を持った者を差別したり警戒するということは一切ないのだという。そんな偏見のない国ならきっと普通の少女として、いや本当の自分を出しながら生きていくことだってできるだろう。

 少女は歩きにくい雪原を少しも苦に思わず、むしろ一歩一歩に希望を感じながら歩みを進めるのであった。

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