第5話

 少女の姿をした竜は海が大好きだった。それはもう人の心臓を喰らうのと同じぐらい。

 ベージュ色の砂浜と白波が立つ蒼い海のコントラストが素敵な海辺だった。リアス式海岸の一部である、この浜辺はゴツゴツとした岩壁に囲まれていた。いくつかの岩の頭が海面から顔を覗かせている。そこに真っ白な羽と黄色いくちばしをもったカモメが留まり、羽を休めているのだった。

 少女は砂浜と海の境界線に三角座りをしていた。海風に揺れる彼女の長い髪は艶のある灰色で、瞳は空のように澄んだ青色をしている。そして、彼女の手足は白い装甲のような鱗で覆われ、背からは自分の背丈よりも大きい竜の翼が生えていたのだった。

 彼女は竜にもなれず人でもない竜人という孤独な種族だった。竜からは半端モノだと蔑まれて、人間からは魔物や魔族の類だと攻撃の対象となった。そんな彼女が心まで魔物になるのにそう時間は要さなかったし、生まれついてから心まで魔物だったような錯覚すら覚える。

 だが、そんな少女の表情にはまだ幼さが見え隠れしていた。

 まだ彼女の心の中には海を綺麗だと思う純粋な心が残されていた。しかし、それは長くは叶わなかった。

 彼女は立ち上がると、右腕を振るったするとまるで最初からそこに存在したかのように、少女の右手には一振りの槍が握られていた。

 形状こそ普通でどこの国でも見られるような両刃の槍だったが、柄も刃も漆黒で塗られた不気味な見た目をしていた。こんなにも照り付ける太陽の光を少したりとも反射しないこの槍は敵に反射した光で居場所がばれることがない隠密と暗殺に特化して作られたものだった

 少女は一瞬寂しそうな顔で俯いて、目に浜に波が打ち付け引いていく様を焼き付けると面をあげた。

 そして、槍を構えるとそこに立っている貴方を睨みつけたのだった。

 そのときの彼女の表情は怒っているようで、それでいて新しい獲物を見つけてしまった獣のようでもあった。

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