第1話
暖かな光を振りまく満月と夜空を彩る星々が見つめる草原の中に、まっすぐ延々と続く茶色の線が伸びていた。それは多くの旅人が土を踏みしめて固まってできただけの道で、まだ見えぬ遥か遠くの国へと繋がっていた。辺り一面には膝程の高さの草が生い茂り、涼しい夜風に合わせて穏やかに波打っている。近くにも遠くにも、木は一本も見えず、どこまでも緑の海が続いていた。
道の真ん中を一人の少女が歩いている。彼女の背には自分の背丈を超える長さの一振りの槍が拵えられており、柄と刃が不気味なほどに黒く塗られていて、不気味な印象を与える。
少女の体躯は細く見える。旅人が好むフード付きのケープに身を包み込んで、腰には薬品や金銭、携帯食が入ったポーチが付いていた。まだ遠い目的地目指して歩みを進める彼女の表情はまだ若い。夜風に灰色の長い髪を靡かせ、時折夜空を見上げる蒼い瞳にはまだこの世の汚さをまだ知らないように見える。
「まだまだ遠いな。夜が明けるまでに着けば良いんだけど」
少女が言った。
だが彼女に返事を返す者は誰も居ない。
「やっぱり話し相手が居ないと寂しいな」
そう言うと、彼女はその場で立ち止まって大きく伸びをした。疲れがかなり溜まっていたのだろう。伸びをした瞬間に、軽く立ち眩みを起こしてしまい、その場で二三歩ふらふらと酔っぱらいのように踊ってしまった。
歩いても歩いても同じ緑の光景、そしてお世辞にも歩きやすいとは言えない凸凹な道に少女は精神的にも肉体的にも疲れ切っていた。いくら旅人が良く通る道だからといって無理をして倒れでもしてしまえば、必ず助かる保証なんてどこにもない。
少女はここで野宿することを決めると、道から少し外れたところの草むらに入ると、ナイフで軽くと草を切って空間を作り真ん中に寝袋をしいた。
野宿の準備を簡単に済ませて、寝袋に潜った彼女はすぐに寒さでくしゃみをした。
「くしゅんッ!!」
先ほどまでは涼し気だった夜風が今では憎たらしく感じられる。夏の終わりかけの夜はとても冷え込む。寝袋一枚でどうこうなるような寒さではなかった。
彼女はポーチから小さな携帯コンロを取り出すと、親指の先ほどの大きさの魔石を一欠けら入れると、蝋燭を数本集めたぐらいの大きさの赤い火が光と共に少女を温かみで包み込んだ。
依然、寒さが完全に解消したわけではなかったが、少なくとも次の日に凍死する心配はなくなった。
少女は小さな温かみに包まれながら、しばらくはコンロの火を見つめて起きていたが、数分後には小さな寝息を立てて眠りについていたのだった。
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