灰色髪の竜傭兵

直治

第0話

一人の少女がいた。


一人の少女が図書館で本を読んでいた。


その少女の髪は灰色だった。彼女は古い図書館で、分厚いを本をゆっくりと丁寧に読んでいた。


その少女はまだ若かった。年は十代半ばぐらい。背まで伸ばした髪は艶のある灰色で、瞳の色は空のように蒼い。彼女は何世紀も前に建てられたらしい石造りの大きな図書館を訪れていた。そこで彼女は一冊の本を手に取り読み始めた。『竜殺しの騎士』と金色の糸で刺繍されて書かれている本だ。その本はとても分厚い上に言い回しが古く、とても読みにくい。だが、少女がゆっくりと一つ一つの言葉を丁寧に理解しながら読み進めていた。


 まだ年端のいかない少女だった。顔に浮かぶ表情は十代半ばぐらいだが、とても大人びた雰囲気を身に纏っており、良く言えば真面目な優等生、悪く言えば冷酷な印象を与える。どちらかといえば後者の方が彼女を示すのに合っていた。そんな彼女はかなりの美貌を持っていた。灰色の髪を背の真ん中あたりまで伸ばし、よく手入れされている。少しも油ぎっておらず、それでいて艶のある美しい髪だ。瞳の色は空と見間違うような青色をしている。とても澄んだ綺麗な色で、その目で見つめられて胸の鼓動が早くならない男はそういない。

 少女は朝早くから古い図書館に来ていた。何世紀も前に建てられたこの図書館は石造りだが、数度の大地震を耐える程の頑丈な設計になっていた。この図書館に行けば古今東西から集められた珍しく価値のあるものから今の若者がよく好むカジュアルなものまで、書物なら何でもあった。普段、本なんてものに特に興味も無い少女は何の風の吹き回しか、図書館に足運びただ手に取るわけでもなくまるで迷路のように続く本棚という壁と壁との間を歩いていた。すると、一冊の分厚い本を見つけた。その本はとても古くそして誰も手に取られてこなかったのか、紙が黄ばんで埃を被っている。その本の題名は『竜殺しの騎士』であった。

 少女は気が付くとその本を手に取っていた。一枚ページをめくるとそこには大きく竜殺しの騎士と題名が掛かれており、次のページには色が塗られていない挿絵が載っていた。挿絵には竜とそれを退治するため剣を振るう騎士の姿が描かれていた。色が塗られていないというのに少女はまるでその光景を現実で見たような気持ちになっていた。白銀の甲冑を見纏い、神々しく光る長剣を手にした騎士の姿。そして、真っ黒な鱗に覆わて、紅い焔を口から吹く竜の姿。この二者が死闘を繰り広げる様が頭の中に鮮明に浮かび上がった。少女は一ページまた一ページと捲っていく、気が付けば少女は本に夢中になっていた。古い本なもので、使われている言い回しは古く中にはもう滅多に使われない言葉で書かれている表現もあった。しかし、少女はそのような個所を呼び飛ばすのではなく丁寧にゆっくりと読み進めた。

 気が付いたときにはもう夕方になっていた。日が低くなり、蝋燭の灯りが寂しく目立つ。日が暮れれば、図書館は閉館する。少女はまだ半分も読めていないことを惜しく感じながら、本を棚に戻した。そして、去り際名残惜しそうに本の背を指でなぞったのだった。

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