嫌いなヒロインに一泡吹かせようではないか

こまこま

嫌いなヒロインに一泡吹かせようではないか

 俺にはどんな手を使ってでも勝ちたい相手がいる。それは__頭のおかしかった幼馴染。 



 ★☆★☆



 「数学のテスト、98点だったよ!綾戸あやとは?」


 「俺は65点だ。」

 

 「いやーーまた圧勝してしまったな、いい加減もっと本気出してくれますーー」


 「黙れ!俺は常に本気だ!」

 

 こうして煽ってくるのは、俺の幼馴染__駒瀬鈴穂こませすずほ。彼女の長い茶髪は美しく、ツルツル肌をしており、金色のエフェクトがかかったようにも見える。おまけに勉強・運動も学年一番と、漫画に出てくる完璧美少女みたいな奴である。

 もちろん学校一の人気者でもあり、天才の美姫と言われている。


 こんな奴の幼馴染とはお前は勝ち主人公だと思うかもしれないが、俺はこいつが大嫌い。

その理由は俺をいじめてくるからだ。どういう意味か?それは俺が説明しなくてもすぐに分かってくるだろう。


 「負けた罰として、今回は何を頂こうかな?今日コンビニで買っていたお菓子でも貰おっかな?」

 

 「くーーよく見ていたな……分かった今回はお菓子だ」

 

 「やったーー今日も無料でゲット!じゃ次の勝負も楽しみにしてるよ」

 

 俺と鈴穂は、ほぼ毎日勝負している。と言っても一方的に仕掛けられているだけだが……。

 勿論のごとく、拒否権はない。

 負けた人は勝った人に何かをあげないといけない、それだけが唯一のルール。しかし、さっきも言ったように鈴穂は完璧美少女なので、俺は運動も勉強も勝てるはずもない。だから、いつも勝負があることに俺の何かがなくなっているのが現状。

 これをいじめと言わないでなんという!

 ちなみに今回はお菓子だが、今までに漫画なども奪われたことはある。

 

 「あー俺のお菓子がーー」


 「今の発言からにして、また負けたのですか」


 嘆いてる俺に話しかけてきたのは数少ない友達の一人____曽良美月。

 アクアブルーショートと変わった色の髪に、モデルみたいな体型、男なら二度見してしまうほどのあれも持っている。おとなしい性格であり、こちらも勉強・運動と共に完璧に近しい存在で、美穂に次いでの二番手。


 なぜこんな人と仲良くなれたのかと言うと、お互い鈴穂が嫌いという共通点があったから。

 なのに美月が嫌っている理由はよく知らない……

 分かっている!この仲の深め方が良くないのは、しかし同じ標的いるとやはり息が合ってしまったのだ。


 「あいつなんで俺が勝てるわけないと分かっているのに勝負吹っかけてくるんだ!雑魚狩りもいい加減にしろよな」

 

 「本当ですね。私は鈴穂さんに次いで学年二番ですから勝負をするなら私の方が良いと思うんですが……もしかすると二番手の私と勝負するのは怖いかも知れませんね」


 これを聞いて改めて思う____キモい奴だ。勝てるか分からない相手には勝負せず、勝ち確の奴は勝負する、鈴穂のそういう所が俺は大嫌い。 

 だから、俺はいつか、なんとしてでも勝って、恥をかかしたい!

 

 「でもあそこまで綾戸君にだけ勝負をかけるとなると、きっと何かあるかもしれませんね。そうですね、こういう場合でしたら、綾戸君のことが好きだったりするパターンかと……」


 「いやーーあるはずがね……うん?」

 

 最初は絶対ないだろうと考えていたが、今までの美穂の行動を思い出すと、美月の考えはあながち間違ってはいないことに気づいた。

 これは浮かれていたり、調子にのっているわけでもないぞ!

 そう思った理由はちゃんとある。意外かも知れないが、鈴穂は中学途中まで本当に頭のおかしかった奴だったのだ。いつも奇妙な行動をしていて、勉強も運動も学年最下位を争うぐらい。

 でもいつだっただろうか、俺が鈴穂に偏差値の高い、この成城時高校せいじょうじを目指すと言った時から、見る見るうちに人が代わりだした。そして、中学生最初の頃、謎の美女と呼ばれていたあだ名が、卒業する時には今の天才の美姫、とまで格上げされた。


 「でも、仮に俺のこと好きなら、いくら勝負だといえ平気な顔して人の物奪っていくか?」

 

 「そういう人もいるのでしょう」


 ここで俺はあることを思いついた。

 もし本当に好きなら、俺が鈴穂に勝つ為に使えるのでは?と

 じゃあどうして勝とう?......そう考えていると、俺に良い案が突如、天から舞い降りる。

 

 「美月!ありがとう!おかげで勝つ方法が分かったかも!」

 

 「何か変なことを考えたそうね……」


 少しひいた目をしていた美月だが、そんなことはお構いなしにに廊下へ出る。

 そう!鈴穂を探すために!



 ☆★☆★



 放課後。

 俺は鈴穂と一緒に帰ることに成功。

 隣からはフローラルの香水が漂ってくる。

 実に4年ぶりに一緒に帰るのだが、懐かしいなという気持ちは一切なかった。

 俺は絶対鈴穂を倒し恥をかかせたい!それだけが今の俺を占めていた。

 

 「綾戸が一緒に帰ろうなんて珍しいね……」


 「そうだな」


 こんな時に限って、鈴穂の様子がおかしかった。

 ずっとソワソワしてるなんて......もしかして本当に俺のこと好きなのか?

 そんな妄想をついつい抱いてしまうほど、おかしい。

 流石にいつものようにからかってくれないと、やりにくいので一言かけようとする。

 

 「なーーお前大丈夫か?さっきから様子おかしいぞ?体調でも悪いのか?」

 

 「そ、そ、そんなことないよ……」

 

 動揺している。まるで怖いものを見たかのように頭の先から足の指先まで震えに震えていて、顔が赤い。 

 こいつほんまに俺のこと好きなのかもしれない。

 だんだんとそう思ってきた所で、俺は行動に出る。 


 柔らかい鈴穂の手を握りしめ、渾身の一打を放つ!

 

 「鈴穂、お前俺のこと好きなのか?」


 ここで俺が取った行動はハッキリとさせること。本来なら、ヒロインが主人公のことを好きだと分かってくると、主人公も恥ずかしくなってきて、無言のままで帰る場面だったかもしれない。

 だけどそれは主人公も幼馴染のことが好きだったり、気にかけていたりと前提条件が必要だ。

 だから鈴穂のことが嫌いな俺は条件に当てはまらない。


 「はーーそんなわけないでしょ!な、な、なんで私が綾戸を好きにならないと行けないの!」

 

 この言葉は一件、怒っているようにも聞こえるが、実は頭から湯気が出ており、鈴穂の所だけとても暑そうだ。


ビンゴ。こいつはどうやら俺のことが好きらしい。

 これだけで決めつけるのはまだ早いかもしれないが、もういいだろう。


ここでだが、俺が考えた勝つ案を教えよう。

人間は好きな人や推しを目の前にすると、判断ミスが起こったり、パニックったりすることがある。

もしそれだけで足りなくても、好きな人から胸きゅんな一言でももらえば、ほぼ全員がそうなるだろう。


この姿は普段なら問題ないのだが勝負の場で圧倒的不利になる。正常の判断が出来にくくなってしまうからだ。そうすると、普段負けている人にも自然と勝つ確率は上がる。俺はこの判断ミスを誘い勝負に勝つ。そして皆の前で恥をかかす。

これこそが俺が考えた作戦!


  やると決めたら何がなんでもやってやる!



☆★☆★



次の放課後、今日も俺は鈴穂と一緒に帰る。


 「今日も一緒に帰ろうだなんて!もしかして私のこと好きなの?」


 「そんなわけがないだろ」


いつものようにからかってきたが、あっさり返す。

さぁ、 今日の目標は実験。

本当に判断ミスが起きるかどうか確かめたかったから一緒に帰った。


  「な!今日は久しぶりにご飯食べて帰らない」


  「えーーどうしよかなーー綾戸が奢ってくれるなら行ってあげてもいいけどなーー」


  「……分かった。奢ってやる」


苦渋の決断ではあったが、勝つのに必要な出費だと考えれば安いもの。

俺のお金の事情もあったため今日は、フャミレスに行くことになった。


「綾戸は幸せ者だな!こんな美女と一緒にご飯を食べられるのなんて」


「そうですね。幸せ者です」


ウザイ!早くこいつに一泡吹かせたい。

だけどここは焦ってはいけない所。だから今は我慢するのだと自分に言い聞かせ、落ち着かせる。


  「綾戸は何にする?」


  「じゃ、俺はハンバーグセットで」


  「了解!」


俺は一つのメニューしか頼んでいないのに、鈴穂は店用のタブレットで次々にメニューを入れる。

いったいどれだけ食うのか?鈴穂がボタンを押すごとにお会計が怖くなってきた。


 「な?お前どれだけ注文すれば気が済む?」


声のトーンを落として言ったのだが、鈴穂はお構い無しに強烈な一言を放つ。


 「人のお金だから、自分が満足するまでだよ!」


クズすぎる。絶対、今まで猫被って生きて来ただろう。それじゃなきゃ学校一人気者なんておかしい!

恐る恐るタブレットで注文履歴を見ると……なんと!俺の持っていた全財産と同じ値段。


   「お前人間じゃない」


  「何バカなこといってるの。私は人間だよ」


そろそろ俺の堪忍袋が弾けそうになったので少し早いが、もう実験を開始しよう。

俺はすぐさま切り替え実験に移る。


  「鈴穂!お前本当、昔と変わってないな。俺そういう所本当に好きだ!」


  「えっ!」


鈴穂の顔が突然、赤らめ出す。

よし。ここまでは順調!後はいきなり勝負だ!


  「問題!日本で初めて鉄砲が伝わった場所とは?」


  「えっと。えっと……」


  「はい!ここで終了!答えは種子島でした」


よしやっぱり混乱していた。こんな初歩的な問題でも答えられないとは。

いっとくけど決してこれを卑怯だとは言わせないぞ。ルールにないのだから合法だ。


   「はい!負けたから何か頂戴!」


「ずるいずるい!」


   「でも勝負は勝負だ!だから罰ゲーム!」


   「分かったわよ」


念願の初勝利!いったい何をくれるのだろう。もしかしたら自分の物は払うと言ってくれのでは、と期待していたが……鈴穂は俺の隣に来たので違うとわかり落胆。

本当に何をくれるのか、そう思っていた矢先、俺の頬の一部に鈴穂の柔らかいモノがあたった。


  「これで良い?」


  「い、い、いいだろう」


鈴穂は恥ずかしそうに正面の席に戻る。

まさかこんな方法があったとは……すっかりやられた。

確かに必ず物だと言ってなかった……


その後はお互いに、無言のまま食事が済ませる。

もちろん俺の財布は、空っぽになった。



★☆★☆


フャミレスに行ってから一週間ちょっと。

最近は俺と鈴穂の予定が合わなかったので勝負はしていない。

しかし今日は鈴穂と遊ぶ約束をした。

どこへ行くのかと言うと__水族館。

 なぜか鈴穂から誘ってきたので、恥をかかすチャンスだと思って了承した。


 「お待たせ!待った綾戸?」


 「いや待ってない。今来たところだ」


定番な会話を終え、水族館に向かう。

今日の作戦はこうだ。

まずは純粋に水族館を楽しむ。そして楽しかったねと振り返っている時に、可愛いと言う。

そして、ジャンケンをする。

どうやら女性はチョキを一発目に出しやすいらしい。考える隙を与えなければ、チョキを出してくるだろう。これに俺はグーを出して勝利!これが作戦。


「この魚綺麗ね!」


「そうだな!綺麗だ」


俺達は、カップルのように水族館を回る。

嫌いな人と来ているはずなのに、水族館は楽しい。自然と今日はコイツを許せる気がした。


 「ねーこのブロブフィッシュて言う魚、綾戸みたい!」


 「誰がだ!」


やっぱり前言撤回。

こいつのウザさは水族館でもかき消せないかった。

 全く、少し褒めようとしたらこうだ。


  「次はイルカショー観に行こうよ」


  「分かったよ。だから焦るな」


 そう言ったが、鈴穂は聞かなかった。

 一人で先走って、知らない人とぶつかった。

 

  「ごめんない」

 

  「お嬢ちゃん。こんな所で走り回ってはいけないよ。マナーの守れない悪い子にはお仕置きが必要かなーー」


 面倒な人とぶつかった。

 本来ならざまぁみろ、と知らないフリをしたかったが、流石にできなかった。


  「あのーすみません」


  「あーん。誰だお前?」


  「一様こいつの連れでして、私から叱っておくので今回の件は許してやってくれます」


  「なんだ!お嬢ちゃんに彼氏いたのか。しょうもねーやつだ。分かったよ、今回だけは許してやる!」


 なんとか帰ってくれた。

 心臓はずっとうるさく、今にも吐きそう。

 すると、鈴穂は俺が無理したのを察してくれたのだろう、その後、数分の間背中をさすってくれた。


 「今日はありがとうね!」

 

 「お前のためにやったわけではない。周りの人の迷惑になると思ってやっただけだ」

 

 「それでもかっこよかったよ!」

 

 この笑顔はずるかった。

 愛情に満ちたまなざしをしていて、天使のように微笑む。

 嫌いな人のはずなのに……ついついそう考えてしまう。


 「今日は頑張ったからご褒美あげるね」


 鈴穂はそう言って、俺の手を握る。

 丸く小さい手は俺を優しく包み込み、心地が良くなる。

 

 「あれ照れてる?お顔が真っ赤だよ」

 

 「照れてないし!」

 

 こいつが大嫌い!なのにどうしてだろう、このままでは俺がパニックってしまいそう。

 どうにかしようと考えるが、頭が回らない。

 

 「そうだ!今からじゃんけんしよう!」

 

 「え!?どうして?」

 

 「いくよ!じゃんけんポン!」

 

 もう強硬手段に出た。と言ってもそれしかできなかった。

 結果はと言うと……俺がグーそして鈴穂は________グー。

 これは想定外。流れでは、俺が負ける流れだと思っていたがまさかのあいこ。

 次は何だそう?頭をフル回転させてみたが、できなかった。

 結局、運任せチャレンジにしたが、一向に勝負がつかない。

 

 「いつまでするの?てかなんでじゃんけん?」

 

 「分からない……」

 

 「はーー⁉」


 作戦は総崩れ。

 元々じゃんけんを考えたのはただその場で簡単にできる勝負だったから。だから鈴穂に納得させることができない。そのままじゃんけんは強制終了を迎え、今日はただただ俺が照れただけになった。

 

 

 ☆★☆★

 

 

 今日は体育祭。

 俺たち陰キャからしたら、地獄の行事。

 体育祭と言う存在自体嫌なのに、今日はそれに加えて走らないといけない。

 しかも、鈴穂と同じ所で……。

 こんな奇跡あるか?そう言いたくなるのも分かるが、これは奇跡ではない。

 美月によって勝手に決められた。体育委員という特権を使って。

 

 「綾戸君!今日は頑張ろう!」

 

 「お前、なんで俺と鈴穂と一緒にした?運動で勝てるわけないと分かっているのに……」

 

 「だからだよ!皆もきっと勝てないと思っている。けどもし綾戸君が勝ったらどうなる?」

 

 「俺の評価が良くなる!」

 

 「それもそうだが、お前は鈴穂に恥をかかせられる。つまり綾戸君の目標が達成されるってこと。安心して!私達が頑張るから」

 

 美月の考えはよく分かった。しかし、ただ競争したら負けるに決まっている。

 いったいどんな策があるのか?前の美月の作戦から勘の良い人は分かっただろうが……つまりほぼ根性論。

 もう少し詳しく説明すると、俺たちの走る順番はアンカー、つまりあらかじめその前で、距離を空けておき俺にバトンタッチ。後は根性で逃げ切る。

 果たしてこれで鈴穂に勝ったと言えるのだろうか?なにか違う気もするが、勝つためには現実的なだろう。

 しっかりと俺の前三人は瞬足ばかりだ。

 

 そしてとうとう地獄の門が開く。

 体育祭は競技が進むにつれて、順調な盛り上がりをみせていき、周りの応援が熱くなっていく。

 俺たちの出番も刻一刻と近づいてくる。

 

 「まさか綾戸と戦うとは!ワクワクするね」

 

 「俺はワクワクしないけどな……」

 

 鈴穂には絶対的な自信があるように見える。

 それもそうだ、相手はよく知っている人なのだから。

 だけど今回は一人ではない!

 

 「ねぇ綾戸!もし私勝ったらね……ううん!フラグになるかもしれないからやっぱいいや!」

 

 「やっぱ変な奴だ」


 やがて入場のアナウンスが流れる。

 皆の前で勝負できる機会。どんな手でも勝つ!

 

 

 「位置について、よーいドン!」

 

 審判の掛け声と共に皆が走り出す。

 一走目は順調に駆け出しトップに躍り出て、どんどん差を広げていく。

 二走目もそのままキープをし、三走目である美月にバトンが渡った。

 鈴穂のクラスとは随分と差があった。

 勝てる!そう思った瞬間、目の前で誰かが派手にこける。

 勿論、その人物とは__美月。

 

 「あーー」

 

 そう観客の声が漏れる。

 美月はすぐに立ち上がるが、足を怪我したのだろう、見る見るうちにその差が縮まる。

 幸い、あらかじめつけていた差があったので、追い抜かれまではしなかったが、鈴穂のクラスとの差がほぼなくなった。

 そしてとうとう俺にバトンが渡る。

 受け取った時の、美月の顔には涙を浮かべ、鼻血が出ていた。

 ごめんね!そう最後に言ったのが聞こえる。

 

 「お前はよく頑張った!」

 

 漫画の主人公らしく、カッコ良くきめる。

 しかし漫画と違う所は、そんなことを言ったからって、力バランスが逆転するわけでもない。

 俺は、あっさりと鈴穂に抜かれてしまう。

 

 「この試合もらうね!」

 

 抜かれる瞬間にそう言ったのが聞こえた。

 悔しい!そして、もう終わりだな……この二つが頭に浮き上がる。

 半ば諦めつつ走っていると、周りの応援をかき消すぐらいの声が聞こえる。

 

 「諦めないでーー!まだ終わってないよ!」

 

 美月の声だ。

 とても普通の応援だが、なんだか勝てる気にさせてくれる。

 なぜだろう?そう考えると答えはすぐに出た。

 忘れてた!

 次の瞬間、俺は今日ありったけの力で叫ぶ!


 「俺は!鈴穂が好きだ!世界で一番好きだ!」

 

 そう、答えは好きな人効果。

 観客も鈴穂も時間が止まったように固まる。

 俺はそんなのお構いなく走り出す。

 そしてゴール!

 

 ずるいかも知れないが、一様俺が勝った。

 するとようやく、皆の時計が正常に動く。

 

 「えぇー⁉」

 

 「う、そ……」

 

 観客は驚き、鈴穂はその場に倒れた。

 こうして俺は鈴穂に勝ち、体育祭が終わりを告げる。

 安心してくれ!鈴穂はただの気絶なので、目が覚めるとすぐに元気に帰った。

 

 

 ☆★☆★

 

 「ねぇ!鈴穂のこと好きってホントなの?」

 

 「なぁどうなんだ?」

 

 朝から教室が騒がしい。

 なぜなら昨日、あんなに大胆と告白みたいなことをしたからだ。

 おかげさまで、俺に出口がない。

 一度は人気者になりたい願望はあったが、まさかこんな形でなるとは思わなかった。

 

 すると教室からゆっくりと女子生徒が入って来る。

 みんなその人を見つけた途端に、スーパーの特売品を争うように移動していった。

 その先にいた人とは勿論__鈴穂のこと。

 質問攻めにあっている姿を見ると、少し申し訳ない気持ちにもなる。

 

 しかし俺には解決しないといけない問題がある。

 それは__美月問題。

 今まで鈴穂のことを嫌いと言っていたのに、昨日当然好きだと言えば矛盾が生じる。

 鈴穂のことを好きだと言ったのは勝つためでやったことで、本来その気は全くを持ってない。

 誤解を解く、そのために美月に近づこうとするが逃げられてしまう。


 ずっと付きまとったからだろうか、放課後になってようやく美月は口を開いてくれた。

 

 「あなたは裏切り者です。だからこれ以上近づかないでください」

 

 「違う!あれは誤解だ!俺は今まで通り鈴穂のことをが嫌いだ!」

 

 「噓です。しかももし仮に勝つためだけに好きだと言ったのなら、余計にあなたとは関われません!そんな人の気持ちをもてあそぶクズとは関われません!」

 

 最もなことだ。

 ここでようやく俺は、今までの行動が間違っていたことに気づいた。

 

 「すまない……俺は間違っていた。いくら今まで散々にされてきたからって人の大切な気持ちをもてあそぶなんて……」

 

 「クズです……でもあなたがすることは私に謝るより、もっとしないといけないことがあると思いますが?」

 

 美月はそう言って、俺の視界から消えた。

 鈴穂を探そうとしたが、その必要はなかった。。

 なぜならもう後ろにいるから。

 

 「鈴穂本当にごめん」

 

 バチーン!!

 俺の頬は赤くなる。

 当然のことだと思い、何度も何度もやられた。

 

 「綾戸!さっきも言われていましたが、あなたは人間の中でも底辺のクズだ。」

 

 「そうだ」

 

 「人の気持ちであそぶことは決して許されません。しかしこの原因を生んだのは、私の行動にもあります。どうです?ここはあいこと言うことで」

 

 思っていない言葉が舞い降りてきた。

 そんなことにしてくれいいのだろうか?そんな戸惑いも生じる。

 

 「分かった。鈴穂がそれでいいのなら」

 

 「じゃあこの件はこれで終わりだね!それじゃあ切り替えて……クズ綾戸よ!私はそんな所も含めて恋をした!だから付き合って!」

 

 「……はぁ!」

 

 こいつはやっぱり頭がおかしい。

 なぜこのタイミングで告白するのかと。

 好きだとは分かっていたが、いざハッキリと言われるとなぜか安心した気持ちになる。

 この気持ち____ようやく分かった!

 

 「お前やっぱりおかしいぞ。でもそうだな!いいだろうこのクズがお前と付き合ってやろう!」

 

 鈴穂は嫌いだ!

 そんなことは噓偽りの言葉でしかなかった。

 俺はどうやら鈴穂に反撃をしているうちに恋をしてしまった。

 

 「やっぱりカップルになりましたか」

 

 そう言って現れたのは、帰ったと思っていた美月!

 どうやらこの一連をコソコソとみていたらしい。

 

 「もしかして!お前こうなると分かっていて」

 

 「そうですよ!分かっていました。綾戸君が鈴穂のことを好きだと」

 

 「いやー美月にはかなわないわ」

 

 鈴穂はやけに馴れ馴れしく喋る。

 おかしいと感じたが、それは正解。

 

 「お前ら……やったな!」

 

 「あーー私が鈴穂を嫌いだと言ったのは噓。鈴穂がどうしたら付き合えるか相談されていてな、裏で色々していました。」

 

 結果的に遊ばれていたのは、俺だったらしい。

 こうして、俺に初めてで最後の彼女ができた。

 

 

 

 

 



 

 

 

 














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嫌いなヒロインに一泡吹かせようではないか こまこま @Komakoma29

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