第20話



とある日の、1年生の女生徒目線



お、珍しくあの桃先輩が朝から登校している。


とはいえ、現在SHR中である。


まるで始まっていないかのように堂々とグランドを歩いてくる


学校1有名なその人を観察する。


桃先輩はグランドを横切り、必ず上を見上げる。


グランドから見上げると


桃先輩がベタ惚れの2年エマ先輩の席が見えるから。と、


もう全校女生徒が知っている。


しかし今日は見上げたまま桃先輩が立ち止まってしまった。


この世の終わりのような顔をしている。


何事かと観察を続けていれば、


お尻のポケットから携帯を取り出し


いじりながら踵を返して来た道を戻っていくではないか。



ぁあ、愛しのエマ先輩の姿がなかったのか。


なんて私が気づいたのは、校門あたりから


前髪を手で押さえながら走ってくるエマ先輩を見つけたからである。


小さい顔に茶色がかった細い髪をなびかせ、白くて細い足を隠している


スカートを揺らしながら走ってくる姿に女の私がドキッとしてしまう。


一方、おそらくエマ先輩に一生懸命メッセージを送っている桃先輩は


自分の正面から駆けてくる彼女の姿にまだ気づいていない。


2人の距離が縮まり、エマ先輩が止まらずに


「桃李先輩!おはようございます!学校反対ですよ!?」


と声をかけ、桃先輩の横を通り過ぎていく。


桃先輩は一瞬固まり、すぐに振り返る。


そして、走り去ろうとする彼女を追いかけ


エマ先輩の隣で緩く走り出す。


そのエマ先輩に向ける顔が


さきほどの表情と違いすぎて


フッ と笑みがこぼれるのであった。


(なんとも微笑ましい先輩カップルだ。)




その日、”エマ先輩が遅刻をした。”


”走ってる姿が可愛すぎた”と男女問わず噂になった彼女を


放課後見た時には、


朝はなかったカーディガンが腰に巻かれていて


桃先輩の独占欲に1人を除いた全校生徒が気づいていた。






(気づいていないのはエマ先輩だけ。)







”桃李先輩は彼女を誰にも見せたくない。”

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