第8話


本日は桃李先輩がバイトの日なので


クラスの子たちと、カラオケに来ております。


あんまりクラスの集まりに顔を出さない私が参加したのには、


ちゃんとした下心があります。


(桃李先輩のバイトしてるとこが見たい。)


そう。桃李先輩はカラオケでバイトをしているのです。


「いらっしゃま、、、え?」


「お疲れ様です。」


「え?」


「今日クラスの子たちと来てるんです。」


「ふーん。来るなら言ってくれれば良かったのに。」


「驚かせたくて」


「そ」


後ろでニヤニヤするクラスの子たち。


「桃先輩お疲れ様です!予約した新田8名でっす!」


クラスの中心的な新田君が手続きを進め、部屋番号をもらった。


それに続こうとすると


「笑眞。」


「?はい」


「浮気は許さないよ」


「?もちろんです。」


「男の隣には座らないでね。」


なんて言って手を優しく握ってくるから


赤面しつつ、「了解す」と返し


今度こそクラスメイトに続いた。


トイレに抜けて、部屋に戻るとき、吹き抜けのようになっていて


下を覗けることに気づきなんとなく下に目を向けると


桃李先輩のいる受付の前に、とても綺麗で派手な女の人が立っている。


受付カウンターに両肘を乗せ、下から桃李先輩を誘うように


甘い目を向けている。


「ねぇ、硬いこと言わずに連絡先くらい教えてよ。


遊んだこととか他言しないからさ。口硬いのよ、私。」


「仕事中なので、関係ないことはやめてください。」


「あ!じゃあ仕事終わってからならいいんだ?それなら仕事終わるまで待ってる。」


「あの、お客さん困ります。」


一向に引かない女の人に困り果てている先輩


仕事中でお客さんということもあって、


いつものように下手に無視ができないようである。


見ていられなくなり、下に降り


「あの、すいません。マイクの調子がおかしくて、見てもらえますか?」


「申し訳ございません。すぐ伺います。」


なんて接客用語で返したくせに、


受付から出てきたかと思えば


手を握って行くものだから


受付に置いてけぼりにされたお姉さんは固まっていた。


「、、、妬いた?」


「いえ、そういうつもりでは、、、困っているかと思って。


余計なお世話でしたか?」


「正直めちゃくちゃ助かった。けど複雑」


「複雑?」


「今の妬くとこじゃないの。」


「うーん。私は先輩がちゃんと私を想ってくれているの伝わってますし、


流されるような人じゃないと思っているので、あんまり心配はしてないです。


妬いた方が良かったですか?」


「いや、今の回答で満点です。」


なんて満足げに笑う先輩


「今日21:00に終わるから、送ってく。」


「え!いいですよ。バイトで疲れてるんだし、早く帰って休んでください。」


「笑眞不足解消したら疲れとれる。」


そうねだるように、指先をきゅっと握ってくるものだから


私の心臓もきゅっとなって、伏きながら「了解す」


と返すことしかできなかった。



21:00時間通りに「終わった」と連絡がきたのを確認し


クラスメイトに挨拶をして下に降りれば


バイト姿の先輩がいた。


「お疲れ様です。制服着替えないんですか?」


「今日バイトの服持って帰って洗濯するから、このままでいいかなって」


そういう先輩の姿は


真っ黒のシャツに真っ黒のスラックス。


黒い服が先輩の白さを倍増させ、妖しい雰囲気を感じさせる。


色気が、、、、


いつもより緊張して横に並ぶ。


「、、、なんでそんな離れてんの?」


いつもより少し距離のある並び方に意義があるらしい。


「桃李先輩のバイト姿がかっこよすぎて目に毒です。」


「そ?制服と変わんないじゃん。


そんなことどうでもいいから、手。」


と手を差し出される。


おずおずと手を出せばいつもより強引に手をつながれ


そのまま引き寄せられる。


そうしてご機嫌に歩き出す先輩であった。



”桃李先輩のバイト姿は目に毒すぎた。”




「今度俺も笑眞のバイト先いこーっと」


「恥ずかしいんでやめてください」

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