第4話


新学年が始まり、2年生になった。


必然的に新入生が入ってくるわけで、


新入生が来るということは、


必然的に桃李先輩がすごいことになる。


昼休み、窓際の席からグランドを見下ろす。


視線の先にはグランドを横切って、今頃登校する桃李先輩。


眠そうな顔だが、相変わらず美青年である。


そしてあっという間に新入生に囲まれだした。


”今日はまだ登校していない。”とか


”今日はもう帰ったらしい。”とか


情報が毎日飛び交っていて、


新入生はある意味すごい団結力を見せる。


とうとう囲まれすぎて進めなくなった桃李先輩。


そこに、体育教師が現れ


群がった新入生をどけ、桃李先輩に説教を始める。


そんな一部始終をボーっと見つめていると


ふと、桃李先輩の視線がこちらに移る。


「説教中だっていうのに、どこ見てんだ!呉羽、聞いてんのか!」


そんな声がこちらにまで聞こえているっていうのに


本人にはまるで届いていないようで、


突然携帯をこちらに向けだした。


そして、次の瞬間には私の携帯に通知音。


「おはよう」と、それから、窓からそちらを向く私の写真。


桃李先輩は目が悪い癖に、私を見つけるのがうまい。


というか、登校してはグランドから見える私の席を毎回確認しているように思う。


遅刻をするなら、裏門から登校したりと


目立たなくすることもできるのに、


本来、目立つことが苦手な桃李先輩が


わざわざ噂になるような登校をするのは


私の席を見る為な気がしてならない今日この頃。


「遅刻した」


とまたメッセージが送られてくる。


「見ればわかります。」


「帰りは一緒に帰ろ、迎えに行く」


「了解です。HR終わってからにしてくださいね」


と送ったのにも関わらず、


HR中、2年の階がざわついたのは


うちのクラスの前に足を組んで立っているその人のせいである。


こうなると誰も話を聞かないことを学んだ先生たちは早々にHRを終わる。


すでに人だかりが出来ているその人の方に向かえば、


話しかけられていても、すべて無視を決め込んでいた先輩が


息を吹き返したようにこちらに歩き出す。


何も見えていないかのように薄く微笑んで


「帰ろう」と手を伸ばしてくる。


「お待たせしました。」と返し、


手を握り返す。


意外と体温の高いその手の温もりを


この先知るのは私だけがいいな


なんて思う笑眞であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る