第28話
「莉子」
「雪くん」
次の日、いつもの花壇で待っていると雪くんはキャンバスを持って現れた。
渡されたソレはとってもきれいで、やっぱり好きだ。今まで見た絵よりも雪くんが楽しんで描いたんだろうって気持ちが伝わってくる感じがした。
「俺、やっぱり美術系の大学に行こうと思ってる」
ポツリ、と雪くんが言葉を漏らした。座った位置を直すと、彼は隣へ腰を下ろした。いつもと同じ、安心する感覚が私の心を埋め尽くす。
「本当はコレで終わるつもりだった。俺には誰かを感動させられるような絵は描けないから」
「……雪くん」
「ただの言い訳だったんだよ。どうすればいいのか分からないふりをして考えることから逃げてた」
私に話してはいるけれど、どこか自分に言い聞かせてるみたいだ。
「知らないことを知るのは怖い。できないことを目の前に突きつけられる感じがするから……」
いつからだったんだろう。雪くんはずっと、私と出会う前からずっと苦しんでいたのかもしれない。多分、そうだ。
「でも決めたんだ。俺はもう逃げないよ」
私を見る雪くんの目に迷いなんてなかった。自信たっぷりに笑って見せてなんかして、かっこいいじゃん。
今度は、私の番でいい?
「……あのね、雪くん。私」
「待って」
ドキッと心臓が跳ねる。断られちゃうのは、悲しいけど仕方ない。
諦めて笑うと、雪くんは歯切れ悪く、そうじゃなくて、と口を開いた。
「いつになるかわからない。待たせちゃうかもしれないけど、俺がちゃんと納得できる結果を残せたら、俺に言わせて」
雪くんのまっすぐな目が私を見つめて、手を差し出される。その手にそっと手を重ねた。
……1つだけ、言ってもいいかな。
「すっごくドキドキしてる……?」
「言うな馬鹿」
決まらないのも私たちらしいかもね。
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