第25話
手が震えてしかたがない。きっと寒いからだ。それか武者震い。
深呼吸してから教えてもらった家のチャイムを鳴らす。ピンポーンと無機質な音が鳴って少ししてガチャリとドアが開いた。
ずっと会いたかった人が、そこにいた。
「……莉子」
「雪くん、話があるの」
「帰ってくれ。俺は暇じゃない」
「待って」
息を吸う。私の言葉はもう雪くんに何も響かないかもしれない。だからって想いを伝えないなんて嫌だ。
あのね、雪くん。私あなたが好きだよ。
「初めてなんだ」
私を見る雪くんの視線が、一番最初にあった頃の冷たい温度をしている。心臓の辺りが痛くなって、制服の胸元をぎゅうっと握りしめた。
あーあ、シワになっちゃうよ。って心の中の私がチクチク言ってくる。うるさいなぁ、そんなこと気にしてらんないよ。
「初めてなんだよ、私がこんな写真を撮れたの。こんなに雪くんが好きだって想いを伝えられるもの」
一瞬だけ雪くんの目が見開かれた。ほんとに一瞬で、ずっと見てないと気づけないぐらいだった。
雪くんは顔をしかめて私を見た。
「馬鹿にしてんのか」
「してないよ。全部私の本当の気持ち」
「……本当、ねぇ」
「想いが消えちゃうって言ったでしょ?あれほんとは違うって気づいたの」
「違わないだろ」
違うよ。違うの。だって私は出会った日の写真を見るだけで、あの時のこと思い出せるよ。
雪くんが好きだって自覚した時、訳わかんないくらいに好きが溢れそうになったってことも覚えてるんだよ。
「消えたりなんかしない。想いは写真の『中』だけで終わりになんてならないんだよ」
雪くんの顔が見られない。話してるうちにどんどん視線が下がって、靴の先を眺めた。そのままで、いいの?
ポケットから写真を取り出す。あの日の紅葉の写真だ。顔をあげてちゃんと雪くんの目を見て、差し出した。
「……コレ、あの時の写真。資料にしたいって言ってくれたよね?」
迷ったように中途半端の位置にある雪くんの手に無理矢理写真を握らせる。ビクリと跳ねた手をそっと離した。
「私は雪くんの絵好きだよ。目の前にその景色が広がってるような感じがする。……雪くんの努力の結果、だよね。それを知らないのに勝手に『へたっぴ』だなんて、ごめん」
「……別に、事実だろ」
黙って首を振る。彼の目が不安に揺れているのが手に取るように分かって、苦しい。
もう二度と顔も見たくないとか言われちゃうかな。でも、私はこの選択にきっと後悔なんてしない。
「わがままだって分かってる。もうこれ以上迷惑かけないから、もう1回雪くんの絵が見たいな」
あなたの想いが見たいの。たとえこれが最後になったとしても。
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