第16話

「わぁ……!すごいよ、雪くん!」

「オイ、はしゃいで転けんなよ」

「転ばないし!」



 ここは知る人ぞ知る、的な穴場で雪くんもお友達からこの場所の話を聞いたらしい。確かに人は少なく、これなら思う存分撮っても迷惑にならないだろう。うむ、気がきくな。

 リュックからカメラを取り出していそいそと準備を始める。私の写真を雪くんの絵の資料にすると言っていたから責任重大だ。



「お、しっかり赤くなってる」



 雪くんの声が少し弾んだ。たどり着いた少し開けた広場のような場所は、赤い落ち葉が地面を埋め尽くしていた。1枚拾ってクルクルと回して、パシャリと写真を撮っておく。お、かわいい。

 


「この辺りのは時期が早いのかもな。もうだいぶ葉が落ちてら」

「ふかふかで絨毯みたい。きれいだね!」



 振り向いて、息を呑んだ。


 

「うん、綺麗だ」



 紅葉を眺める雪くんの真っ直ぐな目に胸がキュウっとなって、誤魔化すように少し遠くを指差した。



「じゃ、じゃあ次は向こう行こうよ!」

「あ、莉子」

「え?」



 雪くんの声に振り向くと足元の何かにつまづいて盛大に赤い落ち葉へと突っ込む。

 ふかふかの落ち葉に包まれて怪我はしなかったけど、身体中に赤い葉っぱがくっついてくる。足元を見ると落ち葉に隠れて木の根っこが飛び出していた。これにつまづいたらしい。



「……そこ、木の根で、つまづきやすいよ。……フフッ」



 え、もしかして気付いてて黙ってた!?慌てて立ち上がって雪くんを見ると口元を隠してプルプルと震えていた。

 呆然と雪くんを見つめていると堪えきれないとばかりに吹き出した。



「ッフ、ハハ!何やってんだお前!」

「そ、そんなに笑わな、く、ても……」



 優しく細められた目と楽しそうに緩やかに弧を描く口元。切るのが面倒だと言っていた小さく結んだ髪は紅葉によく映える。木漏れ日がスポットライトみたいに彼を照らしていた。

 ふと、目が合った。




 ――私、雪くんのことが好きだ。




 考える間もなく私の手はカメラのシャッターを切っていた。

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