よん

第11話

初めて会ってから数ヶ月が経って、いつのまにか春が過ぎ去って夏が来ていた。


 体育倉庫裏を覗くと、誰もいない。今日は私の方が早かったみたいだ。

 いくら日陰とは言ってもいつもの花壇も蒸し暑い。心なしか花たちも元気がないみたい。しゃがみ込んで近くから花を眺める。暑いとやる気も出ないよねー、わかるかい?



「何やってんだ」

「あ、雪くん。遅かったね!」

「……3年だからな。進路とか色々あんだよ」



 肩にかけたトートバッグをドサッと置いていつものように準備していく。もうこの光景も見慣れてしまった。最初こそ、何見てんだ、とうざったそうにしていたけど、最近はもう諦めたのか特に何も言われなくなった。

 進路、進路かー。そういえば雪くんは3年生だったっけ。春からずっと私たちの『同盟』は続いていて、勉強しているところなんて見ていない。



「雪くん大丈夫なの?」

「2年の馬鹿に絡まれて受験勉強集中できませんって苦情入れても良いんだぞ、俺は」

「雪くんなら大丈夫だよ!」

「調子いいなオマエ」



 雪くん頭良さそうな雰囲気あるし、大丈夫だよね!

 ようやく花壇から離れて定位置に座ってカメラの準備をしていると、私の隣にオレンジジュースが置かれる。見上げる位置にある雪くんはリンゴジュースを傾けていた。



「ん、水分とらないとミイラになんぞ。ありがたく飲め」

「私はリンゴジュースの方が好きです」

「マジでぶっ飛ばしていいか?」



 頭から飲ませてやろうか、なんて物騒なことが聞こえた気がして、慌ててオレンジジュースを飲む。

 ヒンヤリと冷たいジュースは熱くなった体を冷やすにはうってつけだった。おいしー。



「……なぁ、1回交換してやってみねぇ?」



 オレンジジュースを堪能していると、不意に雪くんが絵筆を私に差し出してそう言った。

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