第7話

「へたっぴ、だぁ?」



 夕暮れの景色に、アホ面のシロクマを背負った少女が帰っていく。無理やり貼り付けていた笑顔を止めると、思わずため息が漏れ出た。

 何だったんだろうか、本当に。


 少しの間彼女が消えた方を眺めて、もう一度ため息を吐くと美術準備室へと足を運ぶ。そこはもうすっかり俺の画材や資料で埋まっている。

 キッカリ決まった定位置に筆と鉛筆を戻して手の中のスケッチブックを見た。



「……俺は、違う。俺は『へたっぴ』なんかじゃない」

 


 薄暗い花壇を描いたスケッチブックを破る。ビリッと軽い音が鳴って、いとも容易く俺の2時間は無に帰した。

 そもそもあの場所の管理を買って出たのは絶対に人が来ないと思ったからだというのに。完全に誤算だった。



「……最悪だ」



 少しでも、良くなればいい。希望ですらないこれは打算だ。


 練習だなんだのと言ってもどうせ何も変わらない。そもそも写真と絵では見るべき世界が違うだろうに。彼女は何もわかっていない。



「写真みたい、じゃ、意味ねぇんだよ」



 睨みつけた先にある積まれた描きかけのキャンバスたちは、生意気にも沈黙を貫いた。

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