第4話

「よーし、準備おっけー!」



 お気に入りのシロクマさんリュックに、いつものアルバムと、ゴツゴツした一眼レフカメラを詰めて背中に背負う。くてっと項垂れるシロクマさんがとってもチャーミングですね。


 リュックのポケットには妙にリアルなツキノワグマの缶バッジがデカデカと主張している。誕生日プレゼントで貰ったけど、多分これはやり返されたんだろうなー。誰にとは言わないけど。



「すご……」



 体育倉庫裏の花壇はちょうど倉庫の影になっていて薄暗い。でもそこにはたくさんの花が所狭しと咲き誇っていた。

 影によって冷やされた風が吹いて、花たちがサワサワと葉っぱを揺らしている。めっちゃきれいだ。



「……あの」



 ぼうっと花を眺めていると、少し掠れた低めの声が聞こえた。振り返ると、少し離れた校舎の壁にもたれかかって座る男の子が私をジッと見ていた。どうしたんだろう。

 少し長い髪をピョコンとしっぽみたいに一括りにしていて、制服の上に着ているエプロンはカラフルに汚れている。前衛的なオシャレですね!


 首を傾げていると彼は不機嫌そうにもう一度口を開いた。



「そこ、邪魔なんでどいてもらえますか」

「私?」

「見りゃわかるでしょう。描いてんですよ」



 ちょっと意地悪な言い方をする男の子は、持っていた絵の具のついた筆を手元で振った。チラリと見えた制服の胸元に付けた学年バッジは緑色だから……3年生だ。

 私たち2年生は赤色で、1年生は黄色。信号機カラーで覚えやすいね。私のクラスではバッジの周りに布を巻いていちご型にするのが流行ってるの。可愛いでしょー。



「話聞いてます?」

「あ、ごめんね!」



 男の子の怒った声がほんのちょっとだけ怖くて、慌てて花壇の前からどく。

 もー、人いないって言ってたじゃんか。あれ?花壇きれいだよって言っただけだっけ?



「ね!私、写真部2年生の莉子!君は?」

「俺が答える意味あります?」

「ある、私が知りたいもん」

「……美術部。3年。雪」



 もしかしてすっごくイラついてるのかな、牛乳差し入れたほうがいい?あ、いらない。そうですか……。

 心底面倒です、と顔に書いたまま男の子――ゆきくんは答えてくれた。

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