第13話 国王との謁見
ダナエにドラゴン退治の試練の結果報告をした翌日、借りていた衛兵宿舎を出ようとしていたリュアンの
それは、
『褒賞の件について申し渡すことがあるので謁見の間に来ること』
という内容の書状だった。
(謁見の間?てことは……)
国王陛下に
(まさか、お叱りを受けるようなことはないよな……?)
王女のダナエから課せられた試練は三つとも未達成だ。
にも関わらず褒賞に領地を要求するなど図々しいにもほどがあるのではないか。
(どうしよう……逃げようかな……)
などと震えながら考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ひっ!」
リュアンは悲鳴を上げて飛び上がった。
「リュアン、起きてるかい?」
ノックの主はキリアンだった。
「は、はい……!」
リュアンは返事をすると、すっ転びそうになりながら扉に駆け寄って開けた。
「今、王宮の役人が出てくるのを見かけたんだけど、何かあったのか?」
キリアンの問いに、
「これを届けてくれました……」
リュアンは役人からもらった書状をキリアンに見せた。
「……おお、よかったじゃないか、すぐに決まって!」
書状を読んだキリアンは嬉しそうにリュアンの肩を叩いた。
「でも……」
一方のリュアンは喜びのかけらもない不安そうな顔をしている。
「何かあるのか?」
キリアンも訝しそうな顔になった。
「謁見の間に来るようにと……」
「そう、書いてあるな」
「ということは、お、王様に謁見するんですよね……?」
「まあ、そうだろう」
「もしかしたら、俺は処罰されてしまうのでしょうか?」
「処罰!?なんでそうなる!?」
キリアンにしては珍しく素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「俺は王女様の試練を三つとも達成できなかったのに領地が欲しいなどと図々しいことを願ってしまったんですから処罰されても仕方ないのかと思ってしまってそれで――」
「待て待て、落ち着け、リュアン!」
熱にうなされたように早口でまくし立てるリュアンをキリアンが必死でなだめる。
「もしかしたら領地を貰えるどころか没収されてしまって一族郎党絞首刑になってしまったらどうしようーーああーー」
キリアンに肩を揺さぶられてもなお、リュアンは頭をかきむしりながらまくし立てた。
そこへ、
「いつになったら出てくるんだ、お前ら!」
と、エマが苛立たしそうに叫びながら入ってきた。
「あ、エマ、実は……」
とキリアンが状況を説明しようとすると、
「エマさんどうしたらいいんでしょうーーやっぱり逃げたほうがいいんでしょうかーー」
とキリアンを押しのけてリュアンがエマにすがりつきながら泣き言を言った。
「ちょっと、なに、どうしたの?」
さすがのエマも、リュアンのイッてしまった目を見て恐ろしそうな顔をしている。
その後、どうにかしてキリアンとエマはリュアンを落ち着かせて話を聞いた。
「つまり、あまりにも欲を出しすぎてしまったから王様の怒りを買ってしまったんじゃないか心配だ、ってことなんだな」
キリアンが言った。
「……はい」
ベッドに縮こまって座ったリュアンが蚊の鳴くような声で答えた。
「褒賞が出ることは最初から決まってたんだろ?」
「成績優秀者には、はい……」
「だったらいいじゃないか、なんらやましいことはないだろう?」
「はい……」
「それにな、リュアン」
前後逆さまにした椅子に座っているエマは、ガタン、と椅子をずらしてリュアンに近づき、背もたれに肘を載せて諭すように言った。
「国王陛下はそんなことでお怒りになるような方ではないと思うぞ」
エマは静かな目でジッとリュアンを見つめている。
「……」
リュアンは何と答えていいかわからず、怯えた目でエマを見ている。
「俺もそう思う」
キリアンも静かに言った。
「……」
「ま、私達も一緒に行ってやるからさ。な?」
重たくなり始めたその場の空気を和らげようとするかのように、エマがことさら明るい声で言った。
「そうだよ、三人で行けば恐くないさ」
キリアンもリュアンのとなりに座って肩をポンポンと叩いた。
「……はい、ありがとう、ございます」
――――――――
そして謁見の間。
リュアンはキリアンとエマに両脇を支えられるようにして、何とかかんとか国王の前に進み出ることができた。
そしてリュアンは今、跪いて頭を垂れている。
キリアンとエマも謁見の場に残ることを許され、リュアンのやや後ろで跪いている。
「サグアス男爵家リュアン」
国王が落ち着いた声でリュアンを呼んだ。
「……はい」
(落ち着け落ち着け落ち着け落ち……)
リュアンは小刻みに呼吸をしながら心の中で念じ続けた。
「
「はい……」
(落ち着け落ち着け落ち……え?)
想像していたのとは違う国王の言葉に、リュアンの思考は混乱した。
「まずはそなたに感謝したい」
「……?」
立て続けの想定外の言葉に、リュアンは図らずも顔を上げてしまった。
アルビオン国王ヘレスは玉座にゆったりと座っており、その穏やかな目は真っ直ぐリュアンに向けられていた。
「……へ、陛下……」
思わず口から出てしまったリュアンの言葉に、国王は心持ち表情を緩めて微笑み返した。
「はっ……!」
(し、しまったぁーー直接お顔を見てしまったぁーーーー!)
片膝をついていたリュアンは両膝をついて平伏し、額を床に擦り付けた。
「……どうしたのだ?」
突然のことに戸惑う国王の声が聞こえる。
「リュアン……?」
(王女様……!)
ダナエの声も聞こえ、顔を上げそうになってしまったリュアンだったが、何とかこらえて頭を床にくっつけた。
「恐れ入ります、陛下、よろしいでしょうか?」
エマの落ち着いた声が聞こえる。
「おお、エマ……といったな。なんだ?」
「リュアンは陛下の御前は初めてのことで、とても緊張しているように見受けられます」
「そのようだな」
「はい、ですので、できますれば改めて別の場でお話を頂戴できれば、彼も落ち着けるのではと考えます」
「ふむ、それも一考だな。どう思う、キリアン……とやら」
「はい、私も同様に考える次第です」
キリアンの声も落ち着いている。
「相分かった。それでは謁見はこれまでといたす。それでよいな、ダナエ?」
「はい、陛下」
国王とダナエ王女が立ち上がり、謁見の間を出ていく音を聞いている間も、リュアンはひたすら額を床に着けたままでいた。
「リュアン、リュアン!」
キリアンがそばに来てリュアンの体を揺すりながら呼びかけた。
やっとのことで床から顔を上げたリュアンは半泣きの状態でキリアンを見た。
「キリアン……さん」
「いくらなんでも緊張しすぎだよ」
「そう言うな、キリアン。仕方ないだろう。なあ?」
エマもそばに来てリュアンの肩を擦りながら声をかけた。
「あ、あの……エマさん」
「なんだい?」
「お、俺は、その、処刑されたりしませんか?」
「何をバカなことを言ってる!んなわけないだろ!」
「よかった……あ、ありがとう、ご、ございます」
「本当に、君は素直で正直すぎるな」
キリアンが言うと、
「その辺は少しくらい見習ってもいいんじゃないか、キリアン?」
と、エマが流し目でキリアンを見ながら言った。
「げっ、やぶ蛇……」
「ん、なんて言ったぁ?」
といつもの調子で二人が始めると、
「ん、んんーーーーん!」
と玉座の脇に控えている王国政府高官らしき人が聞こえよがしに大きく咳払いをした。
「「はっ!」」
キリアンとエマは慌ててリュアンを両脇から抱えて彼を立ち上がらせた。
「さあ、行くよ、リュアン」
キリアンに言われて、
「はい……」
と、やっとのことで現実の世界に意識が戻ってきたリュアンが、顔を
キリアンとエマの手を借りて扉の方へと歩きながら、リュアンは玉座を振り返ったて見た。
先ほど咳払いをした高官らしき人がジッとこちらを見ている。
(大臣さんかな、それとも……後でキリアンさんかエマさんに聞いてみよう……)
そんなことを考えながらリュアンは謁見の間を後にした。
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