第10話 ドラゴン退治へ
「ドラゴンって本当にいるんでしょうか?」
王宮の広い廊下を歩きながらリュアンが聞いた。
リュアンとキリアン、エマの三人は王女との謁見を終えて大広間を辞したところだ。
「ドラゴンはあくまでも伝説上の生き物、というのが通説だね」
「子供の頃は勇者が邪竜を倒す物語が好きだったな、私」
「やっぱり空想上の生き物なんですね……」
そう言いながらリュアンはダナエの話を思い返した。
「最近、放牧中の羊が襲われたという報告がきてるの」
そう言うダナエは顔をしかめている。
「羊が……ですか?」
「そう。それでね、羊がドラゴンに襲われているところを見たという証言もあるの」
「ドラゴンを、目撃?」
「ええ、だから大事な家畜を襲うドラゴンを退治してほしいの」
「は、はい……」
といった具合でほぼ命令に近い形でダナエから言い渡されたのであった。
「まずは目撃情報があったところに行ってみるところからかな」
「エデナ丘陵のあたりって言ってたっけ?」
「はい、王女様の話ではそうでした」
キリアンとエマが探索に一緒に行ってくれるのはリュアンにとっては何よりも心強い。
ふたりの協力を得ることは王女にも先ほど許しを得たところだが、
(あ、そういえば……)
リュアンは、ふと思い出したことがあった。
「あの、エマさん」
「なに?」
「さっき王女様にエマさんにも助けてもらっていいか伺った時に思ったんですけど……」
「うん」
「王女様はエマさんのことを知ってるんでしょうか?」
「え……?」
エマは虚を疲れたかのように目を見開いた。
「……なんでそう思ったの?」
一瞬の驚いたような様子のエマだったが、すぐに何事もなかったように聞き返した。
「えと……王女様がエマさんの名を聞いたとき、表情が変わったように見えたんです」
「ふーん」
「だ、だから、もしかしたらエマさんのことも知ってるのかなと……」
話しているうちに自信がなくなってきたリュアンの声は尻すぼみになっていく。
「そうだったかな?」
そう言いながらエマがキリアンに聞くと、
「俺は特に何も気づかなかったけど」
「だよねぇ、多分君の気のせいだよ、リュアン」
軽く微笑みながらエマが言った。
「もしかしたら、王女様が疲れてるからそう見えたのかもしれないしさ」
と穏やかに言うキリアンに、
「そう……かもしれません」
と、どこか腑に落ちない様子のリュアンだったが、
「まあ、エマも王立訓練所の成績優秀者だったからね」
「お前が言うと嫌味に聞こえるぞ、キリアン」
「いやいや何をおっしゃいますやら」
と、なんとなくキリアンとエマにはぐらかされてしまい、それ以上はリュアンも聞けなくなってしまった。
(でも、あの時、聞こえたんだ……)
と、リュアンは立ち去り際にダナエが小さく囁いた言葉を思い出していた。
「……ずるい……」
リュアンにはダナエがそう言ったように聞こえた。
(俺の聞き違いだったのかな……)
仮に聞き違いではなかったとして「ずるい」とはどういうことなのだろうかと思うと、それはそれでリュアンの頭の中を混乱させるのだった。
(もしかして、王女様も一緒に行きたいってことなのかな……?)
ラミアのことを報告した時にそのようなことをダナエが言っていたのをリュアンは思い出した。
キリアンもエマも頼もしく心強い人達で、ふたりと共に探索に行けることは素直に嬉しいとリュアンは思っている。
もちろんカイル達との探索は楽しかったし、できることなら今回のコンペが終わっても彼らと色々と探索をしたいとも思っている。
とはいえ、
(キリアンさんやエマさんに王女様も一緒に探索っていうのも楽しそうだよな……)
とつい考えてしまうリュアンだった。
「とりあえずマリエさんの店に行って見るのはどう?」
「そうだね、何か情報が入ってるかもしれないし」
「はい、そうしましょう」
ということでリュアン達はマリエの店に向かった。
マリエの店は基本的には
自然、多くの情報が集まってくることになるので、マリエは王国内でも指折りの情報通だ。
「家畜がドラコンに、ねぇ……」
リュアンの話を聞いたマリエは最近の調査資料を取り出して調べ始めた。
「あったあった……家畜の羊が襲われたとか、食い荒らされた野生動物の死骸があちこちで見つかった、とか」
「そ、それ、ドラゴンがやったんですか?」
「目撃情報もあるにはあるけど……確かな証拠は今のところなそうだねぇ」
「やはり家畜が襲われたのはエデナ丘陵ですか?」
「そうだね、エデナ丘陵の辺りが多いみたいだね」
「実際にドラゴンっていると思う、母さん?」
キリアンがマリエに聞いた。
「大昔にドラゴンと闘った勇者の伝説みたいなものも残ってるけどねぇ」
「それ、私も読んだことある。ほとんど神話みたいな扱いだよね」
エマも思い出すように言った。
(エマさんも色々詳しいんだな)
彼女も王立訓練所の密偵過程を修了している。
マリエの店の探偵仕事を請ける中で、エマも王宮の資料に触れる機会もあるのだろうかとリュアンは考えた。
「ドラゴンってどんなところにいるんだろう……」
独り言のようにリュアンが言うと、
「洞窟かな、言い伝えではね。エデナ丘陵には高くはないけど岩山もあるから洞窟もあるかもしれない」
キリアンが教えてくれた。
「それじゃ、エデナ丘陵の岩山の洞窟を目指すか?」
「はい、そうします」
エマにリュアンが答えた。
「念の為に薬を持っていきな、キリアン。毒消しとかね」
「うん、そうするよ、母さん」
こうしてリュアン達はドラゴンを退治すべくエデナ丘陵を目指すことになった。
◇◇◇
「はぁ……今日も疲れたわ……」
居室に戻ったダナエはぐったりとした様子でベッドに横たわった。
「ダナエ様、お着替えを……」
メイドのルシーナがダナエの部屋着を持ってベッド脇に立っている。
ルシーナもダナエ同様、その顔には疲労の色が濃く表れていた。
「……さっきは……」
「……はい?」
ダナエの呟きにルシーナが答える。
「……ポロッと出ちゃった……あなたにも聞こえた、ルシーナ?」
「はい、聞こえました……」
「そうよね……あの子、リュアンにも聞こえちゃったかな……?」
「どうでしょう……」
心もとない様子のルシーナ。
「だって、キリアンとエマと一緒に探索に行けるなんて羨まし……けほっ、けほっ……」
勢いよくまくし立てたダナエはむせてしまった。
「ダナエ様!」
ルシーナが慌ててガラスポットとコップを持ってきた。
「んぐ……んぐ……ありがとう、ルシーナ……」
ルシーナが差し出したコップの水を飲むと、ダナエは弱々しいながらも優しく愛情のこもった笑顔を見せた。
「……あなたも疲れてるみたいね……ルシーナ」
少し落ち着くとダナエが聞いた。
「ダナエ様ほどでは……」
ルシーナは無理に笑顔を見せて言った。
「ううん……あなたも疲れてるわ……だから」
「……?」
「ふたりで一緒に……元気になるの」
「……!」
「それで……元気になって……キリアンやエマ……それとリュアンも連れて……探索に行くの……」
「ダナエ様……」
「ね、約束よ……ルシーナ」
ダナエは精一杯の笑顔でそう言うと、ルシーナに向かって両手を広げた。
「は、はい……ダナエ様……」
ルシーナはベッドに腰掛けると、ダナエの細い肩を柔らかく包み込むように抱いた。
(ダナエ様……ダナエ様……)
何度も何度も心の中でダナエの名を呼ぶルシーナの目には涙が
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