第8話 嫌愛飛行団

 地面に散らばった硬貨が飛び上がり、ポロンクセマのてのひらに収まっていく。


「さっき僕が回収した硬貨はこれで全部ポロ」


 集まった硬貨は、再び折り重なり、最後に残ったのは大小二種類の硬貨が数枚程度だった。


「こっちがファフォスで、こっちがタイモス...」


 ポロンクセマが、大きい硬貨と小さい硬貨を交互に指さしながら美空ミクに説明する。


「もう一つのマースがないポロ」


 100タイモスが1ファフォス、100ファフォスが1マースであるならば、1マースはもう一回り大きな硬貨なのだろうか?


「さっきみたいに、どこにあるか探せないの?」


 美空の問いかけに、ポロンクセマは、先程のように指をこめかみに当て、難しそうな顔で答えた。


「…。ちょっと遠すぎるポロ...なんかあっちの方ってことしかわかんないポロ...」


 そういうと、指で大きく円を描きながら遠くの方を指さしている。

大通りの方であろうか?


「恐らくではありますが...」


 ギョウソウが、二人の会話に割って入った。


「先程の男達に見覚えがあります...。この辺りでは、赤い羽織を着た男衆は『嫌愛飛行団』として知られておりまして...。アロ殿の財布は彼らの根城にあるのでは無いでしょうか...?」


「...!」


 ギョウソウの話にポロンクセマが目を見開く。

何か言いかけたが、アロが被せるようにギョウソウに問いかけた。


「なんだ?その『けんあいひこうだん』って?」



「...自警団のようなもの...と聞いております...。」


 ギョウソウは悲しそうな顔で説明を続ける。


「...この街『チシャ』は、ほんの数年前まで寂れた宿場町だったそうで...。ある時、南方から商人が現れ、セイカの都と我が国ムンタラの中継地としてこの街を発展させたのです」


 美空ミクは辺りの路地を見回す。

 確かにレンガ積みの塀も、その上に乗っている瓦も年季が入っている。

 表通りのきらびやかな街並みや人々の活気も、後付けの装飾によるものが大きく思えた。


 街自体も、今、美空たちが居るような路地が入り乱れ、複雑な作りとなっているし。

 交易の為の街を作ったと言うよりも、元からある街を交易に使ったという方がしっくりしている気がした。


「その商人は『ボクシ』と名乗り、チシャの人々をまとめ、働かせ、セイカの都とムンタラとの交易の拠点としてチシャを発展させて巨万の富を築いたのです...」


「そのボクシって人と、さっきの羽織の男達が何か関係あるのか?」


 アロは話が見えないようで、ギョウソウに話の続きを促すように問いかける。


 ポロンクセマは、黙って何か考え込んでいた。


「はい...、商人としての才覚だけでなく、人格者としても民衆から慕われていたボクシ殿ですが、その子供達には良い噂がなく、問題を起こすばかりだったそうです」


 ギョウソウの一人語りはよどみなく続く。


「ボクシ殿は、子供達の素行を見かね街の治安を守る、警邏を補助する組織として自警団をつくられたのですが...」


「なるほど...」


 話が繋がったアロは、納得の相槌を打つ。


「ボクシ殿の邸宅の前に作られたら詰所は不良のたまり場のようになってしまい、自分たちで手配した赤い羽織を着て街を練り歩くようになったのです...」


「とんでもねぇ奴らだな...」


 アロはギョウソウの話を聞いた率直な感想を呟く。


「自分たちの判断で人を助けたり、不審者に声をかけて回ることもあるらしく、街の人々からは何かと人気があるそうでして、人によっては義賊のように話す方もいらっしゃいました...」


 四人の間に沈黙が流れる...


「不審者に...声を...」


 アロの視線が考え込んでいるポロンクセマに向けられる。

 美空も釣られてポロンクセマに視線を移した。


「...?何ポロ?」


 ポロンクセマはポカンとした顔で二人の視線に答える。

 白髪で白装束の少年は風体はこの街でなくても珍しく、義賊様の目にはさぞ不審に写ったことだろう...


「あんた職質されてたのね...」


 美空は少年の肩に手を置き、哀れな眼差しでポロンクセマを見つめた。


「...。とりあえず、その子達のところに行ってみるしかないポロよ」


 ポロンクセマは、美空たちの視線を気にする素振りもなく、淡々と今後の方針について話し出す。


「それにしても、すごい人数だったポロ...全部で何人くらいいるポロか?」


 先程周り取り囲んでいた男達は数十人はいただろうか。

 仮にも自警団が、全員で仲良く街を練り歩いている、などということは無いだろう。


「彼らの大半は、団に憧れた若者や、即席で雇われた者達です。常時詰所にいる人数はそこまで大きくないでしょう。この街では赤い羽織を着ればみな『嫌愛飛行団』になれるのです」


 ギョウソウの説明に美空は、先程の男たちのまとまりのなさに納得した。


「お手軽なもんね...」


「だからマースは無かったポロか...」


 あの男達の大半は、小銭で雇われた野盗のようなものであり、男達一人一人の懐から硬貨が飛び出してきたのもポロンクセマ達から盗んだ金をそのまま渡したのだろう。


「なので、人格者として有名なボクシ殿に話を付けるのが、得策かと思われます。この街に布教に来た際、ご挨拶しましたが、とても気さくな方でした」


 ポロンクセマ、アロ、美空の三人はギョウソウの提案に揃って頷く。


 話を聞く以上、ボクシに話を通してもらうことが一番の近道らしい。


「決まりポロ!早速行くポロ!」


 四人は大通りに向かって歩き出した。




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