第5話 荒川河川敷でのテストフライト

 次の週末、いよいよ荒川河川敷でテストフライトが行われることとなった。

 勝田が河川敷に現れた時、パイロットチームと雑用チームの2つチームを含む江戸前スカイタクシーの所属メンバーがほとんど顔をそろえていた。

 それにしてもゲンジの設計は妙に早い。もともと図面があったかのようである。

 勝田は参加メンバーに声を掛けた。

「ごめんね。社長の俺が遅刻しちゃうだなんて。あれ、まだ始まってないのかい?」

 係長が勝田に状況を説明した。

「社長、予備のバッテリーを事務所に取りに行っているので、『8分45秒』程度、開始が遅れます。あ、あ、あれ、もう戻ってきましたね」

 そこに、事務所から自転車でもどってきた紗良がかけつけてきた。

「すいませーん。遅れました」

 紗良はゲンジに機材を引き渡したが、係長は紗良に質問した。

「どうやって移動したんですか?私の計算よりだいぶ速いんですが」

「そうでしたか?」

「タクシーでも使ったんですか?」

 紗良は息を切らしながら答えた。

「自転車に決まってるじゃないですか」


 ゲンジが機体にまたがり、試運転のために低速でプロペラが回転し始めた。機体はちょうど、バイクのようなフォルムであり、タイヤの代わりに直径1メートルのローターが地面と水平に取り付けられている。ローターの回転による揚力で浮上し、ローターの方向を傾けることで、前進したりする。

 飛行中の操作はローターのみで行うが、ローター停止時に地上で機体を移動させるのに手間がかかる。通常、補助輪があり、人力で押して動かすことができるようになっているが、ゲンジの設計した機体では、自転車と同じ構造のタイヤとチェーンが備わっており、飛行開始時にはパイロットがみずから漕ぐことでバッテリーの消耗を押さえながら、初速を稼ぐことができる仕組みとなっている。

「さすがの出来栄えだな」

 勝田が機体をみながらゲンジに声をかけた。

「まあ、いちおう、万が一のために、水にも浮く設計になってるぞ」

 テストコースの横は荒川が流れていた。

 一方、河川敷のコースはパイロンで設置されており、標準コースではパイロンに触れると失格である。ゲンジがあらかじめテストした時の計測結果をもとに標準タイムが設定されていた。標準タイムは40秒であった。

 パイロット候補生は、DOKAN、山内と犬掛の3名である。本人たちには伝えていなかったが、このテスト飛行の結果から、正パイロットを選別することとなっていた。

 まず、DOKANのテスト飛行である。

 紗良はDOKANがペダルを滑走する姿に釘付けとなっていた。

 斜面から見学する勝田は係長から説明を受けていた。

「1周目は、助走があるので、若干、遅くなるかと・・・。標準タイムは40秒ですので・・・・」

 しかし、電光掲示板に表示されたタイムはそれを下回る38秒、2周目は36秒であった。

「おや、標準タイムを切りましたね。DOKAN君やりますね」

 次のテストフライトは山内であった。しかし、1週目はパイロンに接触して記録なしとなり、2週目はなんとかコースを回り切ったが、記録は58秒であった。

 最後のテストフライトは犬掛であったが、初回の浮上で30秒かかり、1週に3分以上を要した。2回目はバッテリー切れでリタイアとなった。

 3人の計測結果は比較するまでもなく明らかであった。

 ゲンジは自身の設計した機体の予想以上の出来栄えに少々興奮気味であった。

「優勝が狙える・・・」

 ゲンジは勝田に小声で耳打ちした。

「そ、そうか・・・」


 一方、紗良は逸る気持ちを必死に我慢していた。

「また自転車がやりたい・・・」

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