第3話 江戸前スカイタクシーの採用面談

 勝田の横に、一人の中年男性が着席した。飯塚直己であった。飯塚は投資会社から送り込まれた出向社員である。投資先の会社が軌道に乗るようにするための実務のサポートをすることが彼に与えられたミッションであった。

 飯塚は『係長』と呼ばれていた。これは本来の職位ではない。ただ単に、『係長』風な風貌をもっていたため、『係長』とあだ名で呼ばれていたのであった。

 係長は几帳面な性格であった。時間に関しては特にそうであった。

「すいません、私がお手洗いに行っていた関係で、面接開始が『1分19秒』遅れます」

 係長が勝田に声をかけ、江戸前スカイタクシーの採用面談が始まった。


 まず初めに案内された男は道野幹輔。紙で提出したレジュメには「ニックネーム」の欄があり、そこには「DOKAN」と書かれていた。DJのような風貌の男であった。

 係長がエントリーシートの内容を読み上げて内容を確認する。

「自宅は千代田区秋葉原神田町。大学は休学して、その後、自主退学ですか。うちは学歴不問なので、その点は特に問題にはしません」

「そっすねー。それはありがたいです」

 DOKANの口調は採用面接と思えないカジュアルなものであった。係長の質問が続く。

「今、仕事は何をしていますか?」

「昼はお茶の水の楽器屋でバイトしてて、たまに、アキバでDJのライブをやってます」

「うちは契約社員になるんですが、そこら辺の時間調整は大丈夫ですか?」

「大ジョーブです」

「高校時代のスポーツ歴がすごいですね。サッカーで都大会出場、野球で都大会出場、剣道で都大会出場・・・。これ、本当なの?いったい、いくつ、兼部してるの?」

「うちって、運動部が8つあったんで・・・。いや、8つですね。まあ、全部、助っ人で大会に呼ばれてました」

「助っ人で呼ばれてたんですか、すごいですね。ホバーバイクは初めてだと思いますが、大丈夫ですか?」

「ダイジョーブです。がんばってみます」

 次に勝田が質問をした。

「都市で一番便利な乗り物って何だと思います?」

「うーん。便利な乗り物・・・」

 DOKANは考え込んだ。DOKANは、今朝、新御茶ノ水駅のエスカレーターの坂をスケボーで駆け降りたことを思い出していた。

「へへへ。パトカーっすかね?」

 係長は、事務的にその回答をメモした。

「最後に何か質問ありますか?」

「あと、おれ、テニスも得意なんですよ。その構えがね、独特なんですよ。雲竜型なんすよ。何で雲竜型なんだかわかります?ラケットをこうやって・・・」

 DOKANが中腰になって、何か構えを見せて説明しようとしていたが、その時、秘書が入室し、係長と勝田に声をかけた。

「あの、次の方が・・・・」

「ごめん、DOKAN君。今度、ゆっくり聞かせてね。つぎのかたー」

 DOKANはまだ言い足りなかったようだが、おとなしく退室していった。


 次に面接に来たのは今朝、荒川河川敷を競技用自転車で疾走していた女子であった。

 DOKANはホバーバイクのパイロット候補。この応募者はサポートスタッフとしてのエントリーであった。DOKANと同様に面接は基本事項のやりとりで進み、最後に勝田が何件か追加の質問をするという流れであった。勝田は質問をした。

「高校生の時は自転車部に所属していたってあるけど、何か大会とかの入賞経験とかはありますか?」

 女性は表情一つ変えずに答えた。

「いえ、ありません」

 勝田は思った。あれ、おかしいなあ。菊池紗良は、ロードレースのインターハイで優勝経験があるはずなんだが・・・・。まあいいか。まあいずれにせよ、この人も合格っと。

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