第2話 スケボー男とロードレーサー女子

 ある時、インターネットの動画サイトで広告が流れた。


「大都市で最も便利な乗り物って何だろうか?

 地下鉄?バス?それともタクシー?自転車?

 エレベーター?エスカレーター?ヘリコプター?

 地下鉄1駅ぐらいなら徒歩でもいいだろう。


 でも、


 いっそのこと、空飛ぶタクシーなんて

 あったら便利じゃないかな。


      eVTOL実証実験

      パイロット・スタッフ募集中

          江戸前スカイタクシー」


 荒川の河川敷道路をロードレーサーバイクが疾走していた。ロードレーサーをこいでいいたのは霞が関を担当地区に持つメール便の女子スタッフで、埼玉県の戸田市から、東京都千代田区霞が関を目指していて移動していた。

 交差点の一時停止のタイミングで、女子は動画を見ていた。

「大都市で便利なのりもの?そんなの自転車が一番にきまってるじゃない」

 信号が青に変わると、女子は再び自転車をこぎ始めた。

「このままいけば、『自転車おじさん』よりも早くつきそうね」


 地下道をスケートボードで滑走する男子がいた。場所は、千代田線新御茶ノ水駅。男子は急いでいたが、地下深くまで続く長いエスカレーターはビジネスマンで埋め尽くされていた。これ以上前に進むことができない。

「やべえ、これだと面接に間に合わねえ」

 その男子は奇抜な発想をすぐに行動に移すタイプである。そして、周囲の迷惑を省みることはない。

 男はいったん背中の鞄に収納したスケボーを取り出し、上りと下りのエスカレーターの間の滑り台のようになっている斜面に設置し、滑走し始めた。

「YEAAA、DJ.DOKANさまのお通りでえ!!!」

 けたたましいスケボーの音を発生させながら、DOKANはスケボーで斜面を駆け降りていった。今までスマホの画面を見入っていたサラリーマンたちの多くが驚愕の表情で顔を上げた。

 エスカレーターの下部には、この無法者を取り押さえるため警備員たちが集結していた。駅員が必死にピピピと笛をならして減速を呼びかけたが、減速するには遅すぎた。

「やべえ」

 DOKANは減速しきれず、そのまま何人かの警備員たちを吹き飛ばしてしまった。


 勝田凛太郎は、江戸前スカイタクシー秋葉原のオフィスの一角で千代田区からもらった文書を読み返していた。

 1) 来年8月に行われるeVTOLのレース大会に出場し、優勝すること。

 2) 試作機は千代田区内で製造すること。

 3) パイロットは千代田区関係の者であること

 これらはeVTOLタクシーの実証化実験開始にあたっての千代田区から提示された最低条件であった。

「優勝ねえ・・・・」

 勝田凛太郎は机の上に紙をそっと置いた。ただし、勝田はその条件に込められた真の意味に、まだ気づいていなかった。

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