第6話 百花の魁・梅編②

 ーー鼻の頭が赤くなっているぞ。わざわざ外に来なくてもいいのに。

 ーー寒いの、案外好きなんだ。頭がスッキリするだろう?

 ーーそれで風邪を引いたら本末転倒なんだがな。ほら、また甘酒をいれてくるよ。

 ーーやった。梅と飲む甘酒好きなんだよな。

 ーーなら、よかった。いれた甲斐があるよ。


 甘酒をふたりで飲んだ穏やかな日々がずっと続けばいいと思っていた。

 眠りを告げられたときはただただ悲しくて、自分の無能さを呪っていた。

 あの日からずっと涙を流している。

 絵の中は吹雪のままだ。

 プロテア様に会いたい。

 けれど。

 会わせる顔がないーー。


 ☆


「……梅、どこにもいなかったな」

「どこに行っちゃったのかな」

「寒いし温かいココアでもいれるわ。みんなが風邪をひいたらいけないしね」

「私はブラックのコーヒーがいい。ココアは甘すぎる」

「はいはい。他に甘いのは苦手な人はいる?」

 大丈夫だよとみんなが答える。

 甘酒がいいと喉元まで出かかって、それをしてくれるのは梅がいいなと思い直す。

 寒い日のふたりの思い出だ。

 温かい甘酒をまたふたりで飲みたい。


「……ん。うまい。プロテア様、梅の絵はこんな吹雪に描いたのか?」

「ううん。雪は描いたけど、晴れた絵だよ」

「梅の心の表れ、か。梅は泣いているんだな」

「なら、尚更見つけてあげなきゃいけないな」

「……何か梅との思い出はないのか?」

「あるよ。よく甘酒をいれてもらってたんだ」

「あら。プロテア様、ココアよりも甘酒がよかった?」

「ううん。ココアも好きだよ。ありがとう、グラジオラス。ただ、梅にいれてもらった甘酒が結構好きだったんだよ」

「では、次はプロテア様が梅に甘酒をいれてあげるのはいかがです?梅も凍えているかもしれませんし」

 笑うグラジオラスに俺はそうしてみると頷いた。


「ーーグラジオラス、甘酒の作り方を教えてくれないか?」


 ☆


 2人分の甘酒を手に、俺はすっかり暗くなってしまった外を歩き回る。

 容赦なく雪が吹き付けてくる。

 せっかくの甘酒が、冷めてしまう。


「梅!俺さ、甘酒を作るのがこんなに大変だって知らなかったんだ!いつも、いつも、俺が凍えないようにって作ってくれていたんだな、梅!ありがとう!」


 雪空に叫ぶと、するりと甘酒に手が伸びてくる。


「……うん。美味しく出来てるね、プロテア様」

「梅…っ!」


 俺はようやく姿を見せてくれた梅を抱き締める。


「……冷たいね、梅。ずっと外にいたのかい?」

「……あぁ。あの日からずっと我は雪に吹かれているよ。枯れてしまいたいと思いながら」

「枯れなくていいよ。また、一緒に行こう?……また梅の甘酒を飲ませてくれないか?」

「……あぁ、プロテア様が我を必要としてくれるならまた共に行こう。ゆっくりと甘酒も準備しよう」


 梅が微笑むと雪が弱まっていく。


「みんなのところに行こう、梅」

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