第6話 百花の魁・梅編①

 寒風が吹く中、梅が凛と咲いている。

 高潔なその花に俺は手を伸ばす。


 ーー中へ入られよ、プロテア様。外はまだ冷える。


 ふわりと俺の肩に布をかけてくれる長身の女性の名は梅という。名の如く、梅の花の化身である。


 ーー梅は刀の稽古?

 ーーあぁ。素振りだ。腕が鈍らぬようにな。

 ーー梅は熱心だね。

 ーープロテア様の力でありたいからな、我は。


 ふわりと笑う梅は綺麗で目を奪われる。

 梅は刀を使う珍しい花姫だ。刀と聞いたらものすごく攻撃的な気がするが、彼女の本質は防御だ。触れるものを全て切り落とす力だ。


 ーー温かい甘酒でも用意しよう。飲むといい。

 ーーあ、また子ども扱いしてるな?

 ーーまだ子どもだろう?酒は飲めぬ。

 ーーそうだけどさ……もう。

 ーー成長したら共に酒を飲もうぞ、プロテア様。


 ☆


「……寒い」

「さすがは梅だな」


 俺たちは梅に会いに来ていたが、梅の姿を見つけられずにいた。雪が降り、寒さに俺たちは身体を震わせていた。


「ママ、ぎゅー」

「あっ、美桜ズルい。樹姫もやる」

「わわっ、びっくりしたよ」

「ううっ、妻と娘が可愛すぎる!カメラがほしいっ!プロテア、カメラはないかい?」

「残念ながらないなぁ」


 平和な家族の姿に俺はほっこりとする。

 そういえば寒い時によく甘酒を用意してくれたっけ。あの優しい味が懐かしい。


「クレマチス、なぜ梅はいないんだろうな?絵はあってたよな?」

「あっているよ。いるはずなんだけど、おかしいな」

「……ひょっとしたら梅のことだから隠れてるのかも?」

 桔梗の言葉にえ?と俺は彼女を見る。

 クレマチスも確かにあり得るなと頷いている。

「どうして梅が隠れるんだ?」

「梅はプロテア様を助けられなかった自分を許せないかもしれないな」

「そんな!梅は悪くないのに!」

「真面目だからね、梅は。手分けをして探しましょう?この絵の中にはいるはずだからみんなで探せば大丈夫なはず」


 クレマチスと桔梗、グラジオラス一家、俺とクロユリとヒガンバナで周りを歩く。


「……そういえば、ヒガンバナ謝ってたね」


 みんなのもとに戻ったヒガンバナは眠る前に八つ当たりしたことをクレマチスとグラジオラスに謝っていた。ふたりは謝られると思っていなかったみたいでびっくりしていたっけ。ヒガンバナ、良い子なんだけどな。


「……うん。あれは、ヒガンバナが悪かったから」

「いい子いい子」

「ん。クロユリ、優しい」


 クロユリとヒガンバナは根っこがよく似ている。

 こうやって仲良くしているのをみるのは久しぶりだなと笑う。

 くしゅんとくしゃみをしたらふたりがくっついて温めてくれた。


「ーーふたりともありがとう。温かいよ」

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