第2話 生まれ変わってもキミと〜桔梗編〜③

「ーー参ったなぁ、蓋をしてた感情が溢れてきちゃいそうだよ」


 眠るクロユリとプロテアに桔梗が優しく触れる。

 そのふたりの姿はかつてのユリとクローバーを思わせた。


【ーーそっくりだろう?】

「起きてたのね、クローバー」

【なんだか胸が熱くなって、な】

「ふふ。わかるかも。あたしもそんな感じ」

【違うとは思うんだが、つい重ねてしまうんだよ】

「……知ってた?あたしはね、今もずっとーー」


“あなたのことが好きなんだよ”


 ☆


「ユリ、大丈夫?」

「ゔー……暑い。溶けちゃいそう」

「溶けちゃだめだよ。ちょっと待って。ねぇ、クレマチス。ユリ、どうしたらいいかな?」

「冬の連中と一緒にいさせたら良いだろう。あいつらも暑さに弱い」

「冬だったら適任は梅か。梅、頼んだ!」

「我か。良いだろう。ユリよ、耐えるのだ。心頭滅却すれば火もまたーー」

「ごめん。人選ミスしたわ。シクラメン、お願い!」

「……私、そんなに暑いのは苦手じゃないのだけど……仕方ない。ユリ、水あげる。はい、ばしゃー」


 ユリは頭から水をかけられて、目をパチパチとしていた。


「……濡れた。けど、涼しい。ありがとう、シクラメン」

「……ん。ユリ、良い子」

 よしよしとシクラメンがユリの頭を撫でる。

「……これでよかった、のかな?」

「本人が喜んでいるならいいだろうさ」


「ユリ!濡れてびちゃびちゃじゃないか!今拭くものをーー」

「……シクラメン、クローバーも」

「……うん。クローバーもばしゃー」

「え?わわっ、冷たいってば、シクラメン」

「シクラメン、クローバーは濡らさなくっていいんだって!」

「そう?私は楽しかったから、その、濡らしたんだけど、だめだったかな……?」


 その光景を見て、クレマチスが吹き出す。


「クレマチス、あんた!こうなるってわかっててーー!」

「あぁ、お前があまりに馬鹿だからな。自分が一番適任なのに、私を頼るから意地悪をしたくなったんだよ。桔梗、お前の能力はなんだ?」

「あたしの能力は、回復だけどって……あ!」

「回復ってことは、状態異常を治すんだろう?つまり、本来の自分に戻すーー言い換えれば“快適”にするわけだ」


 クレマチスの言葉にあたしの顔はみるみる赤くなる。


「桔梗も、暑そう。はい、桔梗もばしゃー」

「わわっ!や、やめて!シクラメン!」


 桔梗もシクラメンに水をかけられて、髪が服に張り付いている。


「……クローバー、これを」

「あっ、クレマチスずるい!あたしだってクローバーを!」

「お前はまず自分をどうにかするんだな。私たち花姫は水に濡れても大丈夫だが、人間のクローバーは風邪を引く。私が責任を取って、温泉にでも連れていくさ。さ、クローバー。この場は桔梗に任せて私と共に行こう」

「あ、あぁ。よろしく、桔梗」

 勝ち誇ったようにクレマチスが笑っている。


 すたすたと歩きだすふたりを背にあたしはユリとシクラメンに向き直る。

 こうなったら。


「……シクラメン。景気よくやっちゃって。ばしゃーって!」

「……ユリ、桔梗、いくよーばしゃー」

「ばしゃー」


 とことん濡れてやる!




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