第1話 思い出のクロユリ編⑤

「お、噂は本当みたいだな。お前がプロテア王子だろう?花のためにわざわざ出てくるなんて愚かな王ーー」


 話しかけてきた少年がいたが、俺は無視をしてすたすたとクロユリの元へと向かう。


「ーープロテア様!」

「俺のことは気にしなくていい。消火を続けてくれ」

「御意!」


 水魔法を浴びながらまだ炎の残るクロユリに近づいていく。

 ポタポタと白髪から水が滴り落ちている。



「ーー見つけた、クロユリ」



 ボロボロになった少女を俺は抱きすくめる。プロテア様とクロユリは俺の名前を驚いたように呼んだ。



「……どうして……来ちゃったの……?」

「来ちゃだめだった?」

「……だって……危ない、よ……?」

「……危なくても良いよ。俺は君を助けたかったんだ。怖かったね、クロユリ。俺が来たからもう大丈夫だよ」

「ーーっ!わたし、わたしっ……怖かった……!」


 焼けてしまった髪をそっと撫でる。

 幼子のように泣きじゃくるクロユリを見て、俺は助けに来てよかったと笑う。


「ーーなぁに、人を無視してるかなぁ、王子様?」

「……お前が火魔法を使った犯人か?」

「そうだと言ったら?」

「……話を聞かせてもらう」

「許さない!って突撃してくるわけじゃないんだ。案外ビビりなんだな」

「そんなことはないさ。はらわたは煮えくり返っているよ。ただ、まずは対話だ。いきなり戦うのは愚かでしかないからな」

「ふーん。余裕ぶっちゃって生意気なやつだなぁ。まだ怒りが足りないか?」


 少年は手のひらに炎を出し、クロユリにちらつかせる。その瞳が恐怖に怯えている。


「ーー俺が王子じゃなければ、お前を刺し殺してるよ」


 空気がピリピリと緊張を帯びる。剣を掴みそうになった拳は爪が食い込み血が滲んでいる。


「へぇ。花好きのただの優男じゃないみたいだな?わざわざ見に来た甲斐があった。僕はルージュ・フラム。ジーヴル帝国の騎士だよ」


 ルージュがにやりと笑う。炎を思わせる長めの真紅の髪と瞳。年は俺やクロユリと同じくらいだろうか。


「……やっぱりジーヴルの人間だったか」


 両親が向かった先がジーヴル帝国だ。


「ノールがジーヴルの属国になるのも時間の問題さ。なぁ、ノールの王子様?」

「それは俺の領分じゃない。女王が決めることだ」

「なら、もう決まったも同然じゃない?この国に帝国に逆らう軍事力はないよ」

「……力が全てじゃない」

「力が全てさ。弱ければ何も守れない。まぁ、これから思い知ればいいんじゃない?気が済んだし僕は帰るよ。ノールはジーヴルのものじゃないしね」


 ひらひらと手を振りながらルージュは去っていく。



「……あの人、血の匂いがしたよ……」

「単独で好き勝手できるんだ。それなりの地位なんだろうね」

「……次は戦うの……?」

「おそらく、ね。ノールはノールの民のものだから守らないと」



 空に伸ばした手の甲には1つ葉のクローバーの痣が光っていた。



「……ねぇ、プロテア様。わたしもあなたと一緒に戦うよ。あなたが愛するものをわたしも守りたいの」






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