第1話 思い出のクロユリ編④
ーーおかあさん。このてのくろいのはなぁに?
ーークローバーの痣よ。この国を継ぐ人に現れるものよ、プロテア。
ーーおかあさんにも、ある?
ーーえぇ、あるわ。ほら、ここよ。
母は笑いながら、鎖骨にあるクローバーの痣を俺に見せてくれた。
ーーななつの、はっぱ……
ーー7つ葉はね、“無限の幸福”の意味を持つの。
ーープロテアのは、まいすうかわるよ?
ーーそうね。あなたはきっと“特別”なのよ。
ーーこれはなにかいみが、ある?
ーーえぇ。あなたに力が必要になったとき、この痣が力をくれるわ。そんな日が来ないことを願うけれど。平和が一番だからね。国をまとめるのに必要なのは力じゃないわ。頭と心が必要なのよ。だから、今日もお勉強を頑張りましょう?
ーーはい!
俺は母のように立派になりたくて、幼い頃から頑張ってきた。全てはノール・クローバー王国とそこに生きる民のために。
「ーー母さん!俺も、行きます!」
「大丈夫ですよ、プロテア。私は話をしにいくだけですから」
「いいえ!大丈夫なんかじゃありません!あの大国がこんな小さな国を対等に見ているわけがないのです!」
「……わかっていますよ。だからこそです。戦いになったらこちらには勝ち目はありませんからね」
「父さん!」
「大丈夫だ、プロテア。母さんは父さんが守るから。この命に代えても」
「あらあら、ふたりとも物騒ですよ。私はあくまで話し合いに行くのです。戦いに行くのではないです。これでも私は一国の主。おいそれと殺すような愚を犯すことはないでしょう。さぁ、行きましょうか」
両親が馬車に乗り込んで、北へと走り去って行く。
俺はぎゅっと拳を握りしめる。待っているだけで何も出来ない自分が無力で腹立たしい。
と、ドンと不意に地面が揺れた。
何事かと城が俄に騒がしくなる。
「ーー報告いたします!プロテア様!クロユリの丘が燃えています!」
「ーーっ!民に被害は!?」
「ありません!」
「なぜ、クロユリの丘が燃えている!?」
「火の魔法です!」
「なぜ魔法が?いや、理由はどうでもいい。消火に向かうぞ!」
ふわりと笑うクロユリの姿が目に浮かぶ。
あのクロユリが、今、焼かれている。そう思うといてもたってもいられなかった。
「なりませぬ。何が起こっているか分からぬ場所にプロテア様を行かせられませぬ。花を愛でるプロテア様にはお辛いかもしれませぬが、辛抱してくださいませ」
「それは出来ない。クロユリだってこの国の民だ!俺はクロユリを助けに行くっ!」
「ーーっ。ご無礼をお許しくださいっ!皆のもの、プロテア様をお止めするのだ!女王様不在の今、プロテア様を失うわけにはいかぬーー」
家臣たちがプロテアの前に立ちはだかる。
その時だった。
【ーー力を、求めるか?】
声がした。
頭に直接響いている。
ーーあぁ、力が欲しい。俺はクロユリを守りたい。
【運命が動き出すが、構わぬか?】
ーー構わない。クロユリを助けられるなら。
【なら、痣に触れワタシの名を呼べ。クローバーと】
ーー力を貸してくれ、クローバー。
【しかと主の願い、聞き届けた】
パタパタと家臣たちが倒れていく。
その横を俺は駆け抜けていく。
待っていてくれ、クロユリ。今、君を助けに行くーー。
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