第1話 思い出のクロユリ編⑥

「……ありがとう、その気持ちが嬉しいよ」

「……気持ちだけじゃないよ。わたしには“力”があるんだよ。詳しくはその子に聞いてみて?」

「その子って?」

「左手にいるよ」

「クローバーのこと?」

「そうよ。あなたはクローバーというのね」


 そっとクロユリが俺の左手に触れる。


【ーー花姫の“心”を感知しました。“契約”を遂行します】

「待ってくれクローバー。“花姫”ってなんだ?“契約”ってなんだ?説明してくれないか?」

【12の月を司る花の化身を“花姫”と呼びます。花姫にはそれぞれ能力があり、“契約”することでその能力を行使できるのです】

「女王にも同じ力が?」

【否。クローバーの痣があれど、花姫が見えなければ力は使えません】

「あなたは特別なんだよ、プロテア様」


 ふわりとクロユリは笑うがその表情は悲しげだ。


「……クロユリの、能力は……?」

「花姫の能力は花言葉に由来するの。わたしの力は強いけど、弱い」

「強いけど、弱い……?」

「クロユリの花言葉は“呪い”。知ってるよね?人を呪わば穴二つって言葉を。わたしの能力は諸刃の剣。わたしの能力で攻撃をすれば傷を負うの。刺し違える覚悟じゃなければ、わたしの能力は発揮出来ない」

「なら、“回復”出来たらクロユリは最強じゃない?」

「……え?」


 風がふわりとクロユリの焦げた髪を揺らした。


「クローバー。花姫は12人いるんだろ?“回復”の能力の花姫はいないのか?」

【桔梗がいます】

「じゃあ桔梗に会いに行こう!」


 ぐいと俺はクロユリの手を引き、走り出す。


「俺と行こう、クロユリ!」

「う、うん!でもその前にプロテア様、“契約”をしなきゃ!」

「あ、そうだった。“契約”って何をするんだ?」

【ーー接吻です。絆が“契約”となります】

「せせせせ、接吻!?」

「わたしが相手じゃ嫌……?」

「嫌なんかじゃないよ!じゃなくて!クロユリは俺でいいの?」

「もちろん。わたしはあなたが良い。あなた以外は嫌よ。……初めてだから優しくしてね?」

「ーーっ!!」


 赤面する俺を見てクロユリが笑う。俺だって初めてだ。

 そう。初めて会ったときから、俺はクロユリが好きだった。

 一目惚れだった。


「クロユリ……」


 彼女の頬に触れる。 



「ーー好きだよ、クロユリ」

「わたしもよ、プロテア様」



 ふたりの唇が重なる。

 ーーこれがはじまりの物語。



 ねぇ、プロテア様。

 ひとつわたしはあなたに嘘をついてるの。

 わたしは“花姫”じゃない。

 でも、あなたの力になりたいから“花姫”のふりをさせてね?



「ーー思い出してくれた?わたしのこと」

「思い出したよ。たぶん全部ではないけれど」

「そうね。思い出したのはたぶん“プロテア様”だったときの記憶だけ。あなたの記憶はまだみたい」

「……ひとつだけ教えてくれ。俺はルージュ・フラムを討てたのか?」

「討てたわ。わたしの能力を使って、ね。あなたも死んでしまったけれど」

「なら、俺たちの物語は終わりじゃないのか?」


 フリチラリアーーいや、クロユリが首を横に振る。


「物語はハッピーエンドにしなきゃ。みんなで決めたのよ。生まれ変わったあなたとまた出会い、あなたが死なない結末にしようって。もうあなたをひとりで死なせはしないんだから」


 クロユリが俺に手を差し伸べる。

 その手を掴むと絵画の並んだ部屋に転移する。


「ーー“展覧会”へようこそ。まずはここで花姫の力を取り戻し、過去に転生し、ハッピーエンドを迎えましょう?」


 クロユリの絵に手を伸ばす。

 絵は光りだし、クロユリの身体に吸い込まれていく。


「ーーおかえりなさい、わたしの最愛のひと」





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