第1話 思い出のクロユリ編②

「ーー何をしてるの、グラジオラス!約束を忘れたの!?」

「忘れてなんかないわ!忘れてないからこそ、プロテア様を大事に想うからこそ、やめようと思うのよっ!」


 姉が知らない名前で呼ばれている。

“プロテア”と知らない名前が出てくる。


「……昔から桔梗とグラジオラスは仲が悪いよね。ほら、直樹が困ってるよ。わたしは直樹もプロテア様も大事。どんな選択をしてもわたしはついていくよ。どこまでも。あなたのことを愛しているんだもの」


 フリチラリアが俺をみて微笑む。


「……どっちかの味方をしなさいよ、クロユリ」

「ん。わたしは桔梗の味方もグラジオラスの味方もしない。わたしが味方するのは直樹だけだから」

「……相変わらずだね、私たち。最期の時を思い出すわね」


 姉が、菖蒲あやめが苦笑しながら、俺の頬に触れる。整った顔が近づいてきて、そっと唇が触れる。


「!?姉ちゃん!?何やってーー」

 しーと姉が俺をみて笑う。


【ーー能力解除、確認しました。記憶を復元します】


 脳内に響く声に俺はパチパチと瞬きをする。そして記憶の奔流に俺は溺れていく。



 ーー3人ともお疲れ様。ずっと力になってくれてありがとう。あとは俺ひとりで行くよ。不甲斐ない王様でごめん。次に目覚めたときは幸せになるんだよ?俺じゃない主のところでね。


 手を伸ばすと3人はパタパタと涙を溢す。

 3人が“プロテア様”が良い、他の人じゃ嫌だと口を揃え、泣く。


「やっぱりあたしも一緒に行くよっ!」

「やめなさい、桔梗。プロテア様の気持ちを無碍にするつもり?私たちだけでも助けてくれようとしているのに」

「……また、会えるよね……?プロテア様……っ!」


 あぁ、オカトトキと姉ちゃんとフリチラリアだ。

 俺は“プロテア様”と呼ばれている。

 あぁ、俺が“プロテア様”なのか。


「ーーまた会えるよ、クロユリ。次こそはクロユリたちを守ってみせるから。俺が良いって言ってくれるんなら、頑張らなきゃいけないね」

「プロテア様。どうか、安寧をあなた様に」

「ーーうん。ありがとう、グラジオラス」


 グラジオラスの唇が触れる。


【ーー能力発動、忘却。花姫はなひめの記憶を消去します】


 みんなのことを完全に忘れる前に、3人を俺は眠りにつかせる。


「好きです。ずっと想っています」

「あなただけを愛してる」


【ーー能力発動、完全回復】

【ーー能力発動、諸刃のつるぎ


 桔梗と、クロユリとキスをする。

 ありがとう、おやすみ。


 俺はを倒しに行く。

 クロユリたちが目覚める未来を守るよ。

 命に変えてもーー。


 花が描かれた絵画が飾られている。

 12枚の絵画にはそれぞれ花姫が眠っている。


 未来でまた会おう、愛しい俺の花姫たちーー。



【ーー警告。致命傷です。痛みを遮断しますか?】

 ーー良いよ、しなくて。最期まで付き合わせてごめんな、クローバー。

【ーー否。ワタシはプロテア様の一部です。だから、どこまでも一緒です。生まれ変わっても、どこまでも一緒です。ずっとずっと一緒ですーー】







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