思い出のクロユリ編①

 ーー……黒って“不吉”じゃない、かな?

 ーーそんなことないよ。キレイだよ。どんな色とも相性ぴったりだし。それにーー。

 ーーそれに?

 ーー同じ色の髪色だよ、俺たち。

 ーー!そ、それは!

 ーーそれは?

 ーー……嬉しいなって、思ったんだよ、わたし。



「……ふぅ。最近の医療ってすごいな。あんなに痛かったのが嘘みたいだ」


 痛みで意識が飛びかけていた俺は何か夢をみていたようだったが、なんだったのか上手く思い出せないでいる。麻酔のボタンを押し、安寧を手に入れた俺は改めて自分の身に起きたことを思い出す。

 平たく言うと俺は店番中に居眠りしたトラックに突っ込まれ、潰されて死にかけたらしい。幸いにも手術が成功し、一命を取り留めたそうだ。うーん。春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。そんなに眠たいのなら運転をしてはいけない。仮眠をとるなり、ブラックガムを噛むなり、コーヒーやエナジードリンクを飲むなりしなければならない案件だ。それに不思議な夢を見た。黒髪の美少女の夢。いや、夢というよりかは走馬灯なんだろうか。それにしてもトラックに潰されて美少女の夢を見るだなんて、まるで最近流行りの異世界転生もののテンプレすぎて笑えてくる。異世界転生って、よくトラックが人を殺すか、神様がミスをしたりするんだよなぁとひとりで笑ってしまった。




「ーーフリチラリア、か。綺麗な子だったな。髪の色も名前も相まってクロユリみたいだった」


 チリっと脳に“クロユリ”が引っかかる。

 ん?なんで引っかかるんだ?

 クロユリは黒百合とも書くが、普通の白い百合を黒くしただけとは趣が違う。全然別物だ。クロユリは花屋にはまず並ばず、北海道や本州の高山地帯に咲く花だ。花も百合というよりは桔梗のような形で、綺麗というよりは可憐というイメージだ。


「あ、そっか。昔、北海道に行った時に見たんだっけ」


 俺の祖父母は北海道に住んでいる。休みのない両親が俺たち姉弟を預けてたんだ。夏の北海道は涼しいし、自然いっぱいの夏休みを満喫したのを思い出すのだが。


“クロユリ”の咲く風景を思い出そうとするとなぜか記憶が霞む。頭がズキンと痛む。警告、なんだろうか?胸がざわざわする。思い出さなければいけない気がしている。



 ーーまだ、起きてるのね。怪我をしてるんだから早く寝ないと!



 元気な女の子の声がした。フリチラリアとは違う、明るい女の子の声が。



 ーー……君は……?

 ーーあたしのことも忘れちゃったのね、キミは。そうね、あたしはオカトトキと名乗っておくわ。



 肩までの美しい紫の髪がサラリと揺れる。彼女はフリチラリアより少し年上に見える。彼女もまた美少女だった。



 ーーあたしが連れて行くわ。キミを。

 ーー連れて行くって、どこに?

 ーー“展覧会”よ。

 ーー“展覧会”って、フリチラリアの言ってた?

 ーーあら、あの子のことは覚えてるの?妬けるわね。

 ーーいや、覚えてるわけじゃないよ。と言われたから、不思議に思ってたんだ。なんでなんだろうって。

 ーーなるほど。そういうことね。“おかえりなさい”であってるわ。あたしもあの子もずっとキミを待っていたんだから。ほら、あたしの手を取って?“展覧会”に案内するから。



 俺がオカトトキの手を取ろうとしたとき、



「ーー行っちゃダメだよ、直樹」



 姉ちゃんが俺の身体を後ろから抱き締めていた。






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Champ de fleurs〜黒の呪い〜 彩歌 @ayaka1016

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