第7話 帰郷
その日、理玖は、息を切らせて、目をあまりにもキョロキョロとさせながら、先に道夫の店で飲んでいた僕たちの元に現れた。理玖が言うには、酒を飲んで運転していたところを警察の車に見つかったのでそれで逃げてきたのだと、それで興奮しているのだと。理玖はまずは一杯と道夫に強い酒を持って来させた。しかし、どう見ても理玖はもう十分出来上がっているようだった、その興奮を度外視しても、頬があまりに紅潮していたし、目はもう目の前の景色だけを見ることはやめているようだった。事物を突き抜けてその混乱の中に、結局自分の見ようとするものを見てしまう目だ。理玖は、酒を飲むと、いきなり強い力で僕の手を握り、顔を熱く見つめて、葉子、と説得するような調子で言った。
「葉子、あのさ、金がなくなっちゃったんだよ、おれは知り合いの編集に確かにそれを渡したのに、そいつはそれを知らないと言って聞かないんだよ、今日もそいつのとこを訪ねてね、でも今日は、ついに面会さえしてもらえなかった。おれはずっと、朝から呼び出した喫茶店で、待ってたんだけど、待ちぼうけた、ああ、そのせいで、コーヒーの一杯を払うのも大変だった。手持ちの金がなくてさ、コンビニに、少しの金をおろしに行った、そのとき酒が並んでるのが見えた、おれはそれをコートに隠して、逃げた、カフェに、スマホを預けてきちゃったのにさ、それを取り返さずに、コーヒーたったの一杯と交換してしまってさ、ああ、車を運転しながら飲んでると赤信号で止まった警察の車が、隣でじっとおれを見てくるんだ、おれはワインボトルをゆらゆらと揺らせてやった、大胆にやれば案外ばれないだろうと思ってさ、それが、窓を開けて、おれにもそうしなさいと言うようにするから、おれは仕方なくそうした、でも、自分の頬がもう十分赤いってことくらいおれもわかってたよ、呂律が回ってないことも、第一、怒っていたから気狂い扱いは免れないだろうってことも、ああ、窓を開けると警察はおれに、それはお酒? とそんなわけはないよね? と問うように言うから、まさかそんなこと、とおれが笑って言うと、でも君は酔ってるみたいだけど? そう来るので、おれは、おれがこんな程度の酒で酔うと? そのとき信号が青に変わったのでおれはアクセルを踏んだ、ぐねぐねしたこっちの道に慣れたからか、どんな細道でも走れたし、警察を振り切るのは簡単だった。ああ、あれ、なんだっけ? おれはカーチェイスの自慢をしたいんじゃなくてさ、ふふ、まあ、あれはよかったなあ、飲酒運転ってのは、結構興奮する、ハンドルを握る手がもう命を直接掴んでいるのだとばかりに、それでおれが運転したというのも、あの編集の奴に会うためだったのさ、おれは確かにあいつに金を渡したんだよ、この手で、直接、これはこれこれのための金だと言ってね、ところがそいつは、それはお前の金とは違うんだ、と言って聞かず、それはお前の金ではないんだ、お前は僕にちょうど同額の借金があったじゃないですか、いいや、僕にならいい、しかしあなたが借りているのは、僕個人ではなく会社からなんですからね、だからこの金は、あなたのものではないんです。ああ、金ならできたときにいくらでも返せると言っても、そいつは聞かないんだ、それじゃあ白紙に戻ったおれらの関係の上に、傑作の塔を建てようと言っても、おれには信頼がなかったのだ、いいや、おれじゃないよ、ひとりすごい作家を知ってるよ、まだとても若くて、自分が書くための場所を探している、そいつの本を、なあ、手伝えよ、するとその男は、ではまずは原稿を見せてみろと、原稿! それは今紛失中ですよ、ああ、おれの言い方が悪かったのだ、男は一連をおれからのからかいと捉えて、ない小説は出せない、と去っていった。ああ、お前らのある小説がなんだというんだ、ちぇっ、おれは本当にそれを、あいつに手渡したんだ、あいつのしたことは、なんて酷いんだ! おれはなんだか疲れたよ、寝てくる、少しも寝てないんだよ、そのあとでしっかりと謝るからね、ごめん、葉子、恵美、こんなことにしてしまって、ああ、いいや、どうでもいいんだってことは知ってるさ、あんたらにはこれもどうでもいいんだと、出版がなんだ、それがなくたっても書くことはなくならないと、ああでも、おれは疲れたんだよ、もうこりごりだ、こればっかりはお前もプロになってみなければわからないんだ、誰にも届かないものなど、書きたくない、誰もいないところでなんて、おれは生きていたいと思えないんだ、ああ、話し相手を、人生に豊かさを、おれにぴったりの果実を、友達を……」
理玖はそして、幽霊のように去って行った。車のエンジンのかかる音がして、それからまた静かになった。僕と恵美はしばらく残って各々の時間を過ごしていたのだけど、どちらからということもなく示し合わせて、今夜ばかりはいつもより早く、理玖の待っている家に帰ろうということになった。しかしそこでは、パトカーが赤いランプをクルクルと回して、何台も倉庫の前に止まっていたのだ。理玖の車は倉庫に頭から突っ込んだのか、壊れていて、すでに助けだされていた理玖は、ぼつぜんとした様子で警察の車の中に、分厚いガラス窓の奥に座っていた。僕らに気がつくと、警察のひとりが寄ってきて、関係者かと訊ねるので、そうだと答えた。家族かと聞かれると、いいえと、だけど一緒に暮らしているんです、理玖がどうかしました? 恵美はそう訊ねると、遠くの理玖の方に首を伸ばして、近寄ろうとしても、警察はそれとなく進路を阻むのだった。彼がどうしたか、という点には今の段階では答えられません、なんせ余罪がたくさんあるので、しばらく留置所に入ることになります。恵美が理玖の車の壊れを見て、それよりもまず理玖の体は大丈夫なのかと問うと、警官は、パトカーを見るなりパニックを起こし、倉庫と軽くぶつかりました、倉庫が頑丈なものじゃなくてよかった、それとスピードの出しにくい田舎道で。理玖はまずは病院に行きますか? いいえ、あの程度じゃ体の方は大丈夫ですので、今夜から留置所にいくはずです。期間はどれくらい? 余罪の量次第ですが、彼の場合は、早く済めば二週間、でもおそらく二ヶ月か三ヶ月程度。ああ、僕には理玖の助け起こされる姿が見えていた。理玖はきっと無抵抗だっただろう、あの倉庫にぶつかってからは、理玖はすべてを諦めてしまっただろう、もう何もかもが面倒くさくなり、子供が目を覚ますのを嫌がるように項垂れて、ああしてなすがままだっただろう。僕はしばらくはなにもわからなかった。恵美が冷静なのも僕がわからないことも、なにも。しばらくして話が僕の方に及ぶと、僕は嫌でも明晰な意識を取り戻さなくてはならなかった。ああ僕は、ただの家出少年だったのだ。僕は、帰らなければならなかった。それも、あの車が壊れてしまった今となっては、警察の車で。僕は二人から引き離された。恵美はすぐに連絡すると言い、僕と理玖とが、反対の方向に出発するのが同時だった。ああ、僕は車の中で、眠ろうにも眠気が訪れなかった。さっきまで恵美とカフェで絵を描いていたのだ、僕はまたいくらか詩を書いた。恵美の描いていたのは鉛筆で描いた僕の肖像画で、僕が不機嫌そうに、しかしどこか気楽げに、片方の口角をむずむずと持ち上げながら、目でも左上の方を気にしているという絵だった。そして髪は適当に盛り上がっていて、シャツの襟元はラフに開いていた。いくつめの絵だっただろう! 僕が目を覚まして、じっと外の景色を眺めているのに気がつくと、警官はそんな僕の話し相手になろうとしてくれた。曰く、理玖は空き巣を繰り返していたらしいのだ、そのうちの一件を足がかりに今この付近でも空き巣事件の捜査が始まっている、それと今日の飲酒運転と、事故とを合わせると……警官は僕に、できればもう理玖には近寄るな、とそう忠告をしてくれた。学校はどうしてるのか? ああ、僕は、学校? なんだっけな、遠い昔の日々のように思えた。その問いは、僕が学校に対してどうしているのか? ではなく、学校は今学校としてどのように過ごしているだろう? という僕自身の疑問と見事に一致したので、僕はあははと思わず笑ってしまって、学校はどうしてるだろう、とお気に入りの歌みたく小さく口ずさんだ、それから、しばらくすると、みんなが一斉に僕めがけて押し寄せてきたのだ、ああ、それらはすべて十分に予想できることだった、僕に縋りついて泣く母親の姿も、興味なさげに正論を言う父親も、学校のみんなが僕とどう距離を取ってくれるのかと言うことまで、全部わかり切っていることだった、それらが押し寄せてくると僕は飲み込まれてしまった。
*
警察の車両に乗せてもらい、僕が帰宅したとき、母親がどんなに泣いたか? そんなこと、いちいち書きはしない。ただ僕は、それからすぐに、家を出た、母親がそれを承知するはずもなかったので、このように言い含めて、あのね、あんな風に警察というのは、なんの身分ももない僕を捕まえるのにも一生懸命なんだから、僕の命というのも十分に保障されているわけでね、僕はどこにもいなくならないし、ましてや死ぬこともない、ただの散歩だよ。
*
そうか、僕は帰ってきたんだ、てっきり、もう帰ってこないのだと思っていたのに、こんなにもあっさりと、僕はどこにも行けやしなかった、消える、その足で消えられやしなかった、僕はやっぱりまだひとりの僕として、僕の生まれた場所に帰ってきた、僕は詩でも旅でもなくましてや生そのものでもなく、なにものでもないものでもなく、ある確かさのようなものですらなく、風でなく音でなく、やっぱり以前までの僕で、みんながそう扱う僕で、帰って来れば、ここはやっぱり以前となにも変わっていなかった。変わらずに僕は完全に収まるところに収まるだろう、一冊の書物の登場人物のように、僕がどのように振る舞ったとしても一枚の頁が捲れるだけだろう、時の針が右に傾くだけに違いない、この時からは抜け出すことができない、どれだけの時間が経った? 曜日というのは、あんまり退屈なんで誰かがそれに色を塗ったのに違いない! 僕には見知った人生が用意されている。それが退屈なのは、僕がそれをよぉく理解しているからなんだ、それがあるときでもないときでも、同じようにそのような感動はもう十分経験済みなので、僕は不感症になってしまった。僕が学校に行けば、君たちはそこにいるのだ、僕が本を開けば君たちはそこに。ああ、僕は、みんなのことが嫌いなんじゃない、そうじゃないけど、みんなのことを、僕と同じように真剣だとは思えない、みんなにはみんなの言い分がある? でもそれは本当に言うに値するものなのか? 僕が磨き上げるほど、君たちの生に輝きがあるのか? ありはしないさ、君たちのは遊びだ、本当はどうだっていいんだ、ただちょっとそれが気持ちいいので、それを続けているだけなんだ、ああ君たちは、どれだけの苦痛でもそれを幸福と思えるのか? 僕が倒錯者に過ぎないだって? いいや、僕は単に、責任を取れると言っているんだ、僕は僕の芸術のためには、なにをかけたって構わない。君たちのが本気らしく見えるときでも本気ではないのは、その本気さがまるで本気ではないからなのだ、あるいは、その本気さがあまりに俗っぽい汗をかくからなのだ。あんたらのは遊びなんだ、あんたらは本当は、いつ死んでもいいと思ってるんだ、楽しいけれど楽しさに本当の価値など見出してやいないのだ、ああ本当に死ぬのが怖いのは僕さ、僕はそれが怖い、死ぬことが、ああどうしてもこれを克服できそうにない。
*
酔いはまだこんなところに残っていたんだ。僕は線路の上を歩く、その足取りの危うさの中に、それがそれであるということに気がつく、酔った、吐きそうだ……ここは丘のように盛り上がった線路であり、レールは二つ、フェンスもなにもありはしない、ああ、死ぬことが、かつてこれほど近かったことはない。いいや、僕は死にたくないのだ、死にたくないと強く思えば思うほど、それが死を招き寄せているようだと思える。僕はあまりに叫びすぎたので、もう死から隠れる術もなくなってしまったのだと悟る。そのときある焦燥感が僕を乗っ取った……夜がどんどん身体の中に忍び込み、内側を外側へと、捲り、風の中へと晒す。鍵状の風は肉にいくつも食い込んできては、僕の内面をより深く、際限もなく抉り取り、夜の冷たい花が咲くようにその傷跡から僕自身をいくつもいくつも開花させて止まない……僕は散弾銃で撃たれ続ける罪人の死体のようにもズタボロだった、それでも目を閉じると僕は、どんな風とでも出会えた、悪い気分ではなかった。そのとき電車が、線路を揺らした。僕は二つに一つだった。生きるのか、死ぬのか、振り返ることもなかった、僕はその振動を、ビリビリと感じていた、それはしゃっくり上げて泣く子供のように繊細に僕の体中を痙攣させた。電車は、走り去ってからそこに僕がいたことに気づいたのか、汽笛を鳴らし、それで完全に僕の魂はひゅっと連れ去られてしまう。
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僕は地面に横たわった。目を閉じるとすべてが僕のなかで遊んでいるのがわかった。言葉、死、そして思い出たちや、遊びたちが遊んでいる。いつ燃え始めたのかもわからないフィルターのない煙草が指先をじりじりと焦がし始め、紙が焼かれ、ぴりぴり捲れて行くように、皮膚、唇、瞼、それら繊細で薄いものたちが焼かれ、これじゃあ、なんて受け入れやすいものなんだろう……この寒さの中では死ですら、なんと当たり前にあることだろう。そう思えた、衰弱、空気のないなか、溺れることの安さ、苦しくもなく静かな水の中……
*
……やがて、吐き気が、いつの間に僕は眠ってしまったのだろう?……体がひどく冷えていた、僕はゆっくり身体を反転させて、真っ平なコンクリートの上を手のひらでさっと掃除する。その上に、顔を構えて、嘔吐した。無我夢中で指を喉の奥に突っ込んで、二度目の波を呼び、また吐いて……気の遠くなるほどその動作を繰り返しているうちにようやく、僕は僕の地面を見つけられて、そこに立つ、正気に戻る、気がつくと指先の汚れをそこら中で拭っていたらしくて、シャツも、ズボンも、随分汚れてしまっていた。おまけに顔中も吐しゃ物でいっぱいだったから、仕方なくシャツの下から四つ目までのボタンを開けて、開いた布の部分で顔を拭いた。夜風が裸である下腹部に心地よく、マントのようにもはためくシャツは、エリマキトカゲの襟巻のようで、僕はそいつらの王様にでもなったように気分がいい……ズボンのポケットから落ちた煙草を拾い、火をつけ、吸うと、頭は混濁したまま冴え切った。僕は煙草を投げ捨て、火種のところを上手に蹴る。分裂した小さな火が大気を呼吸しチカチカと明滅して消えた。
*
歩いていると、雀の鳴き声が聞こえた。朝がくるといつも電線の間をすり抜けて飛び交わす二羽の雀がいたのだ。夜はまだ薄暗かった。青色の朝焼けの中で建物の角から手のような形をして伸びている大きな雲があった。遠くから犬の鳴き声が聞こえ、僕は歩きながら子供のようにしゃっくりを繰り返した。突然、僕はまた嘔吐し、その涙と吐しゃ物の中で笑った。僕はできるなら今ここで死んでしまいたかった。それほどいい気分だった。道にクリーム色の柔らかそうな液体を見つけると、蹲り、それを舐めた。十分に乾燥して固まっていたので、舌の上にざらついた感覚が残るだけだった。
*
夜明けの肌寒さと、剥き出しの腹にある心地よさが、目覚めと同時に開く瞼のような地平の明るみに温められて、もうすぐ朝になるのだと気がついたときに、僕は懐に小銭をしまい込むように小さな声で「ワン」と吠えてみた。それは、世界の感動、沈黙の隙間に入り込んで咲いた一凛の花だ。ああ理玖に、僕はこれを見せてやりたい、理玖は、今頃どうなってしまっているんだろう? 理玖、あんた、ああこんなにも、そうだ、今夜ここに入り込んで咲いたのは、包み隠せもできない、あんたさ、あんたはなんて素敵な夢を見る方法を、僕に授けてくれたんだろう。
*
沿線の道をずっと歩いていると、迷彩色のジープがやってきた。僕の目の前で止まった車の、照らし出すハイライトの射程から、なんだろう? と運転席を覗いてみたら、そこからひらひらと見下ろすような笑顔を差し向けてきたのは、兄だった。手でそう指し示すので、僕は言われた通り助手席に乗り込んだ。車はゆっくりと走り出す。
「どうしておれがここにいるってわかったの?」
「お前の携帯」
「ああそう、ずっと監視されてたわけだ」
僕はボンネットに足を投げ出して、煙草に火をつけた。兄はポカンと僕を見つめて、
「いつから吸ってたんだよ」
「ついこの前だよ」
「母さんにはバレるなよ? おれも父さんも、大変なんだから」
「わかってるよ、一本いかが?」
「いや、禁煙中」
「ああそう」
「どこ行ってたんだよ、母さん、今日はめっちゃ暴れてたぞ、せっかくお前が帰ってきたと思ったら、すぐに出て行って帰らないから、おれに迎えに行けって、そうじゃないなら警察を呼ぶって、お前も二回目警察の世話になるよりは、おれでよかっただろ?」
「うん、ありがとう、警察の車じゃ、ゆっくり煙草も吸えないからね、一応聞いておくけど、おれはこれから家に帰るの?」
「そうだよ、母さんに、一応謝ってやれ」
「ああ、はいはい、んで、それからは?」
「それから? お前は高校生だろ?」
「高校生? おれがまだ?」
「お前の先生が、もうすぐ学園祭だってわざわざ電話してきたぜ、ほら、あの、白衣着た国語科の」
「ああそう、そんなことが……」
兄は僕の横顔をじっと見つめる、そこに、ここにあるのではない、どこか遠くへの眼差しを見つけたのか、兄はそれを詮索する。
「お前、どこでなにしてたの? なにか面白いことがあった?」
「面白いこと、これはあったというよりは、それ全体が面白いことだった、わかる?」
「なんとなくな。とにかく、ずっと楽しかったってことだろ?」
「うん、当たり」
「すぐ戻るの?」
「あっちに?」
「うん」
「さあどうだろう、今度気分が変わるときまでどうなるかはわからないけど、でもとにかく、簡単に帰れるわけでもないんだよ、理玖って奴が、とにかく大変なことになっちゃってて」
「どんな奴? そいつといたの?」
「ああ、作家だよ、立派な作家、それと恵美って人と、道夫と、あとは名前も知らないけど、何人か近所でよく会う人と」
「お前も、書いてるんだっけ?」
「う〜ん、一応ね、まだ今のところは書いてるんだと思うよ」
「どういうことかわかんないけど」
「わからないけど、あんたにはわかるでしょ? なんてったってあんたは兄だし、それに
あんたの態度はなんというか、人類みな兄弟といったようなものだし」
「なんだそれ」
「気にしないでいいよ」
「なあ葉子、今度またネタ見てくれよ、お前が行ってる間にひとつできたから、お前の意見が聞きたいんだよ」
「ああいいよ、楽しみだなあ、ほんとに」
「おれもそのうち家を出るかなあ、今みたいな半居候みたいなんじゃなくて、もっと本格的にさ。流石に、本気で芸人目指すときは」
「楽しみだよ、お前がそうするとき」
「また、お前の友達も紹介してくれ!」
「ああいいよ、連絡してね、そのときは」
「なあ、家に帰ったら……」
「わかってるよ、まずは手洗いうがいと、ああおれはこの顔を洗わなきゃ、んで、母さんにも父さんにも謝るよ、そんでたっぷり寝て、学校に行くよ……学園祭、夢にも思わなかった!」
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