廃物戦線、スクラップ&ガービッジ

えるん

第n話 ゴミの日

 ドリーム・シティはいつだって夜だから就寝時間も営業時間もなく、いつでもいかがわしくどこでも犯罪がはびこる、夢の国であって夢のネバーランドでなく、本土では表沙汰にできない技術や廃棄物が溜まり溜まって生まれた夢の果てドリームシティ、ここに住まう者は、男も女も機械人間も一人たりとてまっとうではないと一目見て判断がつく訳で、――女のあまりに健全な肢体は、追跡者に一時罠の可能性を疑わせた。

 きらびやかで胸元の丘陵を強調する服装は娼婦、容姿は一級品の人工物とみまがうほどであったから街にゆらめく改造娼婦どもの一匹と見えたが、追跡者の増築・・された第三眼と第四眼は、女が改造や増築は勿論、病に冒されてもいない健常者よそものであることを、その透視・分析力でもって看破した。

 ゆえにこそ奇妙であったのは女に追いつけないことで、消音機能のついた彼の鳥足バードフットによる接近も察知されたところからすると、一分の改造もない純粋な人間というものは、よもや増改築を繰り返した我々再生産者リサイクラーとは異なる機能を有するのか、と思考の隅で検討したが、女が都市の果てに入り込んだのを見て取って、仕事の詰め・・だと余計な思考を終了した。


 果ての果て、廃物集まるドリームシティの掃きだめ、廃物の中の廃物が積み上げられた行き止まり、逃走は終わり、女がどのような機能を有していようと無関係。


 今までの逃走が嘘のように、ゴミにつまずいて転び、怯えと怒りと、殺人者かれには解釈できない不可解な熱量を奥底にたたえた瞳で、己を見つめる女に向かって、鉄板貫く強靱な爪が増築された片腕を持ち上げ、――振り下ろしたところで、追跡者かれ記録ログは数秒、途絶した。


 ……再起動、記録再開、第一眼から三眼まで復帰、四眼は接続失敗エラー。残った眼がとらえるのは、まだ尻餅をついたままの女、彼の雇い主から、いや、街の名だたる有力者たちから幾度となく〝宝石〟を盗み出していると噂の盗人、〝ミス・スクラップ〟と、ぽかんと見上げている彼女の視線の先にたたずむ大きなゴミの塊。

 かろうじて人型と呼べなくもないソイツの肩らしき部位に付着した液体が、追跡者かれの体液であることを第三眼は分析、半身が袈裟懸けに切り飛ばされている現状が、ソイツの攻撃によるものと彼は理解する。


 ――仕事もくてきは果たす。


 残った腕から爪を射出、女に向かって一直線に必殺が飛ぶ――遮られる、またしてもゴミの塊に。のみならず、ソイツから放たれた回転する鉄の刃が追跡者かれの首を胴体から切り離した。

 ぽんと宙を舞いながら彼の機械仕掛けの第三眼は、人型ソイツの体にまとわりついた無数のゴミがぱらぱらと剥離していく様子を、やがて露わになった内側にあった生物、おそらくは健常者、しかしながら幾分栄養不良とおぼしき男児の姿かたちをとらえた。

 分析の曖昧なのは、解析眼である第三眼もすでに機能を停止しかかっているためでもあったし、頭部が、女と男児に背を向ける形で落下したためでもあったが、何にせよ、彼の頭脳も生命活動も機能停止へと急進行、最期に認識できたのは、唯一、自前であった耳がとらえた、二人のやりとりだった。


「名前なんかない。ぼくは、ただのガービッジごみだから」

「いいじゃない、ごみガービッジスクラップわたしの相棒にぴったりだわ」

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廃物戦線、スクラップ&ガービッジ えるん @eln_novel_20240511

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