第17話 飛ばされた先は戦国時代だった
きづいたとき、三人は地上に落下していた。
魂だから、落下しても何の損傷もない。
痛くも痒くもない。
三人はあたりを見回した。
「ここ、見覚えあるわ」と恭美が言った。
(確かに)と京太郎も今日子もそう思った。
どこかで見たような風景なのだ。
今日子が叫んだ。
「ここは私たちが育った伊賀の里にそっくりよ」
確かにそうだ。
見たことのある懐かしい風景が広がっていた。
ただ、違うのは、周りの人たちが今風の衣装を着ていないことだ。
みんな、粗末な野良着仕様だ。
そして……刀を差している人も歩いている。
(刀だって?)
三人はその武士らしき人物を見て気づいた。
歩いている武士の家紋が並び矢だったからである。
恭美が思わず叫んでいた。
「あれは服部家の家紋だわ! ここは戦国時代の伊賀よ! 私たちは戦国時代に飛ばされてきたのよ」
魂が飛ばされてどこへ行くのかは誰も知らない。
まさに前代未聞の信じられない出来事だ。
しかし、こうして三人がそろって伊賀の地に飛ばされたということは、魂はつながりを求めるものであることがよく分かる。
では、プレデターは何処に行った?
彼はこの星でつながりを持つ地などないはずである。
では、何処に行ったのか、どこまで飛ばされたのか?
宇宙まで飛ばされて行ったのであれば何の問題もないけど。
どうせ、彼の星からも追放されて、永遠に近い時を宇宙でさまよいながら、たまたまこの星に辿りついたのだろう。
どちらにしても、あの魔物をそのままにしてはいけない。
多くの惨劇が生み出されるからだ。
「この地がまだ健在ということは、信長の伊賀攻め、天正伊賀の乱の前か。これは大変なことですよ」と京太郎が言った。
「今は、多分、信長が紀州の忍者軍団である雑賀衆ともども石山本願寺を討伐する前ね。その後は、一挙に、伊賀に襲い掛かってくるわ。伊賀が滅ぼされ、藤林、百地、服部上忍御三家は散り散りになってしまう」と今日子が言った。
「こうなれば、その前に信長の命を奪ってしまおうかしら」という今日子を制して京太郎が言った。
「それはダメですよ。歴史をいじるのはよろしくないでしょう。それだけは控えるべきです」
今日子も恭美も沈黙した。
(それはそうよね。私たちの目的はどこかに逃げたプレデターをみつけて成敗することだから)
そして、恭美が近くで農作業しているおばさんに近づいて、信長の動向を知っているかどうかを訊こうとして話しかけたが、おばさんには何も聞こえていないようだった。
そこで、はっと気づいた。
今の私たちは、幽霊のような存在であると。
相手からは見えない、聞こえない。
そうなのよね、私たちは幽霊みたいなものだから。
そうか、それで憑依するわけか。
幽霊になって地獄に堕とされても、まだ人間としてふるまっていたいという未練があるから憑依して、他人の肉体を自分の肉体のように扱い、会話もできるようにしたいわけだ。
ならば、私たちもそれぞれの家系の誰かに憑依すればいいわけか。
そうと決まれば話は早い。
京太郎は藤林長門守の長男である丈太郎に取り憑いた。
今日子は百地三太夫の娘、蛍火に、恭美は服部半蔵の娘、陽炎にそれぞれ憑依した。
ある日のこと、長門守が丈太郎に言った。
「北畠一族が信長のたわけ息子に暗殺され、北畠の居城である丸山城を修築しだしたようだ」
「いよいよですな」
「わしは逃げるぞ」
「逃げる?」
「そうじゃ、初回は織田信雄の軍勢はわずか8千だったから、夜襲や松明を用いた撹乱作戦や地形を活かした奇襲などでたやすく撃退できたが、今度は5万の兵を引き連れてきよった。伊賀の女子供を合わせた全住民でも9万なので勝ち目はあるまい」
「聞くところによると上柘植の福地伊予守が安土城の信長の所に訪れ、伊賀攻略の際は道案内をすると申し出たそうで、赦されることではございませぬ」
「ほっておけ、逃げるのも忍法だ。そもそも、この戦いは万が一にも勝ち目はない。そのうち、続々と寝返る者がでてくるぞ、ま、忍者なんてそんなものだ」
しかし、丈太郎の怒りは収まらない。
(上柘植の福地をこのままにしてはおけぬ、とりあえず鉄槌は下しておかねばなるまい)
京太郎と今日子は呼応して、丈太郎に百地の蛍火を誘わせ上柘植に向かった。
福地の屋敷がどこかは既に分かっている。
今日子が霊視をする。
男が一人。
二人はずけずけと屋敷に乗り込んだ。
「ん?」
目をぎらつかせて福地は立ち上がった。
「おぬしは」
「藤林の丈太郎だ」
「百地の蛍火よ」
「何の用できたのか分かるな」
「織田信雄への道案内の件か。仕方あるまい。負けが確定の戦いだ。保身に走ってなにが悪い」
「何も悪くはない。しかし、それ相応の懲罰は受けてもらうぞ」
「ふん、若僧と小娘が偉そうに」
そういうと懐からくないを取り出して投げた。
(そんなもの、とっくにお見通しですよ)と京太郎がつぶやき、同時に丈太郎が忍刀を抜いてはじき返し、それに呼応して蛍火がバックスピンキックを福地に浴びせた。
「ガッ」
福地は頭を押さえたが倒れない。
この時代の日本人はおそろしく強靭だ。
女性でも40キロメートルを軽々と走破し、60キログラムの米俵を普通にかついでいた時代だ。
「変わった蹴りだな。しかし、忍者を素手で倒せるわけがなかろう」
そう言うと後ろの掛け軸のかかった床の間に置かれていた忍刀を手に取って、抜いた。
そのとき、蛍火の指から永楽通宝がはじけ飛び、福地の右の甲を撃った。
「痛!」
福地は刀を落とし、その顔面に丈太郎の剣先が突き付けられた。
「ううう、まいった。命などくれてやろう。しかし、その前に教えておきたいことがある」
「なんだ」
「風魔小太郎が来ておるぞ」
「風魔? 北条の乱波ではないか」
「そうよ」
「なぜ、北条が」
「奴らも狙っているのさ信長の首を」
「信長の首?」
「もし、信長が伊賀攻めに苦戦し、兵が多大の損傷を受けたことが分かると、一挙に北条が乗り込んでくる。伊賀は草刈り場よ。織田と北条に挟み撃ちにされて生き延びられる領民はおるまい。だから、わしたちは信長に恩を売って逃げ延びようとしているわけだ。いいか、逃げようとしているのはわしたちだけではない。藤林も百地も服部も、とっくの昔に逃げる算段をつけとるわ」
「どこに逃げる?」
「わしたちは織田家だが、上忍御三家は家康を頼るつもりだ。そのために、まず、信雄率いる8千の兵を掃討した。これだけの腕があるぞということを見せつけておかないとな、誰も引き取ってくれぬわ」
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