第16話 時空の歪みは亀裂を伴い渦巻いていた

突然、今日子が叫んだ。


「プレデターが来るわよ。今、はっきりと見えた。すぐそこまで来ているわ」


「えっ、大変」と恭美と京太郎は迎撃態勢に入った。


そのとき、ドアをすりぬけてプレデターがはいってきた。


でかい。

3メートル近くはある。


肉体の幅も巨大だ。

そして、見るからに凶悪で醜い顔をしている。


映画のプレデターそっくりではないか。


すかさず、恭美が四本の指からエネルギーを発射した。


シャーと心地よく響く。


やはり、魂だけだと、エネルギーをさえぎる肉体がないからスムーズに発射できる。


多分、効果も倍とはいかないけれど、三割増し程度に高まっている感じがする。


恭美が放った霊力に霊体を貫かれて、プレデターは少し驚いた顔をした。


(何だこのエネルギーは、この星にこのような霊力を照射できる奴がいるのか)


次いで、京太郎が両手のひらからズーン!と一段と重いエネルギーが撃ち込まれた。


「ウグググ」プレデターがわずかによろめいた。


(なぜ、俺がこんな星でダメージを受けなければいけないのか。全くの想定外だ)


しかし、そう驚いてばかりはいられない。


これが現実なので驚いたり、嘆いたりしている場合ではない。


気を取り戻したプレデターはすぐに反撃にでるべく、左手を恭美の方に向けた。


「あぶない!」

今日子が恭美に飛びついた。


恭美のうえをゴジラが放ったかのような太い、赤い熱射線が飛び去って行く。


ゴジラが熱射線を放つときは背びれが青白く光るから分かりやすいけれど、プレデターの熱射線は何の兆候も示さずに放たれるのでやっかいだ、と思うと同時に、宇宙人も手を使って撃つのね、自分たちと同じね、と類似性を面白く思った。


しかし、プレデターのエネルギーは想像以上にすさまじかった。


(被弾すると一発で魂が吹っ飛ばされそう)と身震いしていた。


今日子に押し倒された恭美はすぐに中腰になりながらシャー! とエネルギーを照射し続けた。


攻撃は最大の防御だ。

ここでひるむと反撃を受けてしまう。


まさに、命を賭けた戦いだ。

その思いは京太郎も同じだった。


(撃って撃って撃ちまくれ)


臍下丹田が空っぽになるまで撃ち尽くそうと心に決めていた。

そうしないと勝てない。


京太郎の連続攻撃を受けてプレデターはかなりダメージを受けていた。


(効いているわ。プレデターの色が少し薄くなったみたい)と今日子は冷静に霊視していた。


プレデターが撃つ間隔は京太郎や恭美ほど早くはない。


やはり、重厚なエネルギーである分、充填に時間がかかるのだろうかと思っていると不意にプレデターの右手から熱射線が発射され、京太郎に命中した。


「グワッ」

京太郎は思わず叫んで3メートルほど飛ばされていた。


これまで受けたどの打撃も比較にならないほどの衝撃だった。


魂が破裂するかのような衝撃だったけど、魂は持ちこたえていた。


これもエネルギーが充填されていることの効果なのだろうか。


魂内のエネルギーが分解されるのをかろうじて支えているかのようだった。


しかし、もう一発食らえば、支え切れるかどうかは分からない。


「恭美さん、エネルギーが枯渇するまで撃ちまくってくれ」


京太郎は必死の声を張り挙げ、同時にあらん限りの力でエネルギーを照射した。


京太郎と恭美の二発のエネルギーを同時に被弾したプレデターは「グググググ」とうめきながらあとずさりし、そのままドアをすり抜けて行った。


「逃げたわ」


今日子が叫び、その後を霊視したとき、異常なことが起こっていることに気づいた。


ドアの外の風景が見えない。


いつも見ているはずの光景が見えないのではなく、光景自体がないのだ。


それは空間が歪んでいるから起こった現象だった。


信じられないことに空間に亀裂が入っている。


プレデターが両手をあげてなにやらもがきながら、その亀裂に吸い込まれて見えなくなった。


「空間が歪んでいるわ! 何よこれ!」

今日子は驚愕の叫びを挙げた。


(空間が歪んでいる?)


どういうことだと三人がドアをすり抜けて外に出てみると、確かに、ドアの外は何もない。


「えっ」三人は息を呑んだ。


(こ、これは)と京太郎は考えた。


(あまりに多くの通常時では考えられない量のエネルギーを放射したために、時空に影響を与え、その結果、時空が歪んだのだろうか?)


そうとしか考えられない。


(もしかしたら、僕たちもプレデターと同じように吸い込まれてしまうかもしれない)


そう考えた京太郎は「急いで手をつないで。吸い込まれても離れ離れにならないように」と叫んだ。


時空の裂け目は次第に大きくなり、やがて渦巻き始めた。


そして、三人はその中に吸い込まれて行った。


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