第13話 憑依霊二体の最後は分子となって宇宙空間の彷徨える塵と化す

三人は最初の敵を宇佐美龍賢と念琳の親子に定めた。


まず、今日子が透視して念琳が居る部屋を特定し、そこに今日子と恭美が向かう。


ナビゲータ役は今日子だ。


恭美が念琳をKOし、離れた憑依霊の場所を指示して、それを恭美が撃つ。


その後、二人は京太郎と合流して、三人で龍賢の部屋になだれ込む。


京太郎が龍賢を失神させ、慌てて憑依を解いた魔物が逃げてゆく方向を今日子が指示し、それに応じて恭美が撃つ。


時間は三分しかない。

手際よくやらないと失敗する。


そのようなタイトな計画を立てて、三人は龍賢の館に乗り込んだ。


玄関口で三人は手首を合体させてエネルギーをチャージする。


さぁ、ここからがスタートだ。


タイムリミット三分の大勝負が始まった。


三人は待合室に飛び込んだ。


巫女二人が乱入してきた三人にたじろぎ、硬直して二人で抱き合っていたが、知ったこっちゃない。


「こっちよ」と今日子が恭美を誘導する。


「部屋には巫女がいるわ。念琳が巫女の唇を吸っているわ。なんちゅう奴よ。仕事中でしょう」


確かに、念琳は巫女の赤い袴を降ろし、ピンクのショーツ一枚になった巫女の口を吸っていた。


舌をからめて、暖かくも柔らかい舌を吸い倒し、舐め倒していた。


そこにいきなり今日子と恭美が飛び込んでいった。


「えっ、きゃっ」と慌てて立ち会があった巫女に今日子が逆拳をみぞおちにぶち込んだ。


巫女はものもいわずに崩れ落ちた。


恭美が念琳の肝臓をめがけて三日月蹴りを決めた。


三日月蹴りは前蹴りと回し蹴りの中間の軌道を軌道を描くので、技の出が早い。


短期決戦には欠かせない技である。


右脇腹を撃ち抜かれた念琳は壁に激突する勢いで吹き飛んで気絶した。


さぁ、ここからが勝負だ。


憑依していた鼻の大きな黒い霊があわてて抜け出そうとするその髪を今日子がつかんだ。


なぜ、今日子は霊体の髪をつかめたのか。


それは今日子の魂が突如離脱しかかったからである。


ヌルっという感じで今日子の魂が抜け出しかけた。


「ここよ、私が髪をつかんでいるから、早く撃って」と言ったが、魂の放った言葉が恭美に聞こえるわけがない。


呆然と突っ立っている恭美を見て、今日子は瞬時に理解した。


(魂が発した言葉が聞こえるわけがないか)


今日子は魂の手だけ残して、顔を肉体に戻し、「ここよ」と足で場所を指示した。


「早く撃って」


ようやく恭美も理解し、胸のチャクラに溜まりに溜まっていたエネルギーを四本の指で発射した。


恭美は全身全霊をかけて、胸のチャクラが空っぽになるような勢いでエネルギーを照射した。


「うぎゃーぁぁぁぁぁぁ」魔物は断末魔の叫びを発したが、その声は肉の耳では聞き取れない。


しかし、第三の眼が開いている今日子は、霊体の分子が恭美の放ったエネルギーによって分離され、霊体自体がばらばらになり、煙のように淡くなって消滅していくさまがはっきりと見て取れた。


(霊体が死ぬとこんな風になるのね。これは死とは呼べないわ。これは消滅ね。ネバーモアね。二度とよみがえりはしない。後は、分解された粒子が永遠に、闇に満ちた宇宙空間をさまようだけになるのね)


そう考えるとあまりの恐ろしさに今日子は身震いした。


(それに比べれば、肉は死んでも魂は残る人の死なんて、死とはいえないわね)


念琳に憑いていた霊の叫びは、当然、龍賢に憑いている白髪の狐顔の霊にも聞こえている。


憑依霊はギョッとした。

あれは霊が放った絶叫か。


どうしてそのようなことが起こり得るのか。


そのとき、京太郎の体が充満したエネルギーに耐えられず暴走した。


京太郎は今日子たちを待ちきれず、龍賢の部屋のドアを蹴破っていた。


そして、自然と腰を落とし、両手を龍賢に向けていた。


その両手の手首がなぜか上を向いている。


(こ、これは両手のひらから撃てということなのか。僕も恭美さんのようにエネルギーを撃てるということか。撃てないわけがない。これだけ第二チャクラにエネルギーが充満しているのだから、放射できないわけがない)


そのとき、今日子が駆けつけて叫んだ。


「龍賢の右上よ。白狐が逃げ出そうとしているわ。絶対に逃がさないで」


(右上か、全然、何も見えないけど)


そう思いながら、京太郎は臍下丹田がからからになるまでエネルギーを絞り出して、全力で発射した。


(たとえ、撃ち損じても恭美さんがし止めてくれるだろう)というテキトーな考えを持ちながら、エネルギーを照射した。


今日子と同時に恭美も駆けつけてきたが、実は、思い切り撃ちすぎたために、胸のエネルギータンクは空っぽになっていた。


つまり、撃ちたくても撃てない状態にあった。


充填されるまでにはしばしの時間が必要とされる。


(やっぱり、撃ち尽くすとダメなのね。考えて撃たないとダメということね)


第二チャクラから発射されたエネルギーは第四チャクラのそれを遥かにしのいでいた。


白髪の狐顔の魔霊は、一瞬で消滅させられた。


今日子が言った。


「当たったわよ。凄いわ、もう霞になった霊体しかみえないわ。絶叫する間もなく分解されたのね」


そして、腰が抜けたようになっている龍賢を視た。


(あら、彼の魂も見えないわ。どうやら、あおりを食らって彼の魂も消滅してしまったようね。ヤバいわ京太郎さんのエネルギーは、とんでもない威力ね。これは使い方に注意しないとネバーモアが増殖されてしまうわ)


恭美が言った。


「魂がなくなった龍賢はどうなるのかしら」


「多分だけど、魂なき空き家になった肉体には、浮遊霊たちが入れ代わり立ち代わり入ってきて多重人格の狂人みたいになるかもしれないわ」


「ヤバイわね」


「私も魂が抜けだしそうになるまで分からなかったけど、肉体は魂の乗り物であることがはっきりと分かったわ」京太郎が言った。


「リチャード・ドーキンスは生物学書『利己的な遺伝子』において、生物は遺伝子によって利用される乗り物に過ぎないと言っていたけど、正しくは生物は魂によって利用される乗り物に過ぎないと言い換えられないといけないかもしれない。ただし、そうなると生物学書とはみなされないだろうけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る