第11話 遂に、伊賀上忍御三家がであった、東京のど真ん中で
祝日の日だった。
外が騒がしい。
窓から見るとなにか喧嘩が始まったようだ。
気づくと隣に今日子がいた。
「男五人を相手にしている若い子、あれって吐竜拳じゃない」
確かにそうだ。
一見すると合気道にみえるが確実に的確に顔面を砕き、手首を破壊している。
凄い速さでコンパクトに。
「降りていって見てみましょうか」と言いながら、京太郎はレガースを腕にハメている。
降りていくと、人だかりが、わずかだが、できている。
高校生のような子が息を切らすでもなく、路上に横たわっている五人の男たちを見るでもなく見ている。
そして、案の定というか、少し離れたところに一人の若い女性が立っていた。
ベージュのカーゴパンツをはいている。
(やはりな、道に大の字になって転がっている幾人かは、この女性の指弾を受けたはずだ)
男の子は通りの奥を見ている。
すると、幾人かの男たちが手に木刀や金属バットを持って駆けてくる。
「加勢が来たな。あの身なりからすると、ここを縄張りとするヤクザたちか。それとも半グレの仲間たちか」
そうつぶやくと京太郎は若い子から少し離れたところに立った。
若い子は、初めは突然、通りに出てきた京太郎を訝しげに見ていたが、京太郎のあの中指を少し曲げて突き出し、親指を立てた拳の形を見て、(まさか)という驚きの顔をした。
(こんなところで伊賀者と遭遇するとは)
京太郎は駆けてくる男たちの前に立った。
男たちは、一瞬、(なんだこの野郎は)と思ったが、なにしろ、勢いがついている。
一人が手にしていた木刀で殴りかかってきたが、京太郎は腕にハメているレガースで木刀を受け、同時に懐に飛び込んで、コンパクトでスピーディなパンチを顎に撃ち込み、返す刀で右手の親指を払って相手の右目をえぐった。
「うわ」と叫んでよろめいた男に見向きもせず、もう一人のバットを持って接近してきた男の顔をめがけてトラースキックを放った。
男は前進気味だったのでカウンターを受けたような形で吹っ飛んで大の字になった。
それでようやく男たちの熱気が鎮まった。
ふと見ると、目の前に、瞬時に二人をぶっ飛ばした京太郎と男五人を叩きのめした若い男の二人が立っている。
(これは勝ち目がねぇ)と思ったのかどうか、残る三人は踵を返して元来た道を引き返して行った。
若い男は京太郎に礼を言った。
「おかげで助かりました」
「残念ながら、君の乱闘シーンは窓越しにしか見えていなかったのだけど、君は伊賀出身ですか」
「そうです。服部小太郎と言います」
(服部?そして小太郎? きょうの字が刻まれていないということはただの武術使いか)
そこにあの若い女性が近寄って来た。
「ありがとうございます。私はこの子の姉です」
(やはり服部の血筋がいたか。必ず居ると思っていた)
京太郎の隣にいた今日子が口を挟んできた。
「私は百地今日子、彼は藤林京太郎。ここまで言えばお分かりですね」
(藤林と百地、何という奇遇なのでしょうか。こんな東京のど真ん中で伊賀者たちに遭遇するなんて。これは奇跡? 違うよね。シンプルなただの遭遇のような奇跡なんて、私は信じないわ。奇跡は必ず有目的なのよ。ということは、これから何かが起こるってことよね)
「私は
そう微笑み合った三人だが、三人は、なぜか、唐突に何らかの体調の異変を感じ取っていた。
体内が熱くなり、ムズムズする。
なんだこれは。
(この感触、あの天狗の時のそれだわ)今日子はピンときた。
やはり直観力が優れている。
(ということは、再び、あの目のマークが浮かび上がってくるのかしら。あの時、何かが欠けていると思ったのは服部だったのね。ということは……楽しみだわ)
京太郎も同じことを考えていた。
(服部との出会い。決して偶然ではないだろう。忍者として、妖術使いとして戦うために三人が引き寄せられた。私は運命論者ではないけれど、奇跡や奇遇を信じないほどのバカでもない。さてはて、我々が戦うべき相手は誰か? 花山院さおりか、宇佐美龍賢か、それとも新たな魔の物なのか。なにかゾクゾクしてくる)
京太郎が言った。
「僕たち二人は、この花魔メゾンというマンションでルームシェアをしているので、ちょっと寄っていきませんか」
「ええ、ぜひ」
小太郎もついてこようとしていたので、京太郎は「ごめんね。君はちょっと遠慮していただきたいのだけど」と言った。
「ええ、なぜですか?」
「ごめんごめん、君だけのけ者にしているみたいだけど、これは『凶』の字が刷り込まれている者同士でないと話が通じ合わないので、今回はごめんね」
恭美がきっぱりと言った。
「今日はもう帰りなさい」
三人が花魔メゾンの方に行こうとすると安出組の組長が若頭と舎弟頭と従えて立っていた。といっても組員は4人しかいないが。
「いや~、強いね」
「彼らはヤクザですか」
「ヤクザじゃない。ここをシマにしているのは指定暴力団の二次団体だから、目立ったトラブルは起こさない」
「では、半グレたちですね」
「そういうところだな。半グレは遠慮なく叩きのめしていい。遠慮なくな。ところで、君はうちのマンションのトラブルに巻き込まれているという噂が立っているが、気をつけないといけないよ。なにしろ、4階と5階は餌用のフロアーだからな。だから、比較的まとな者たちが入居させられとる」
「餌? で、あなたたちは大丈夫なのですか」
「ああ、俺たちと2階の連中はクスリをやっている奴が多いからな、餌には不向きだ。1階のババアたちも不摂生な連中だからまずいだろうし。ということだ。ま、気をつけるか転居するかの二択だな」
恭美が今日子に訊いた。
「餌ってなんですか」
今日子が笑みをたたえながら答えた。
「うちのマンションにはね、人肉を食べる魔物が住んでいるのよ」
「カニバリズムデーモン?」
「そうよ。私たちは、今、その魔女と戦っているの、正しくは戦おうとしているのよ」
「面白そうね……」
「でも恐ろしいのよ想像以上に、私たちの夢の中にまで出てくるんだから」
「ところで」と恭美が言った。
「私たち三人が出会ったときから、体が熱くなってムズムズするんですけど、これって私だけでしょうか?」
「いや、僕もそうだよ」
「私もそう」
京太郎は「三人とも同じって、偶然じゃない、必然ですね」と言いながらレガースを外すために袖をまくって、「あれっ」と叫んだ。
「また、手首のところに三日月の痣が浮き出ている」
「復活したのね。やはり三人がキーワードだったのね。ほら、私の手首にも絵文字みたいな目のマークがでているわ。ねえ、恭美さんの手首にも何かマークが浮かび出ていない?」
恭美が手首を見てみると、そこには六芒星のマークが浮き出ていた。
「私は六芒星よ!これって何よ」
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